3-14【神に——】

 ☆キャスター


 運が流れている。


 キャスターは目の前にいるブースターを見ながら、そう考える。なぜなら一度ブースターと話したことがあり、その他救済をしたのだから。


 だから、ブースターはこちらの味方だと、キャスターは勝手に決めつけていた。救った相手がこちらに被害を与えるとは、思えない。


「あぁブースター様……わたくしは貴女様を探しておりました……」

「ブースター。こいつが言ってた、アレですカー?」

「せや……」

「ふむ」

「わたくしをおいてお話をしないでくださいまし……ささ、共に手を……」


 その瞬間、乾いた銃声が辺りに響き渡る。何があったかと確認する前に、キャスターはごふりと血を吐いて、膝をつく。


 ヒーローの攻撃によって生じた痛みじゃない。もっと新しい痛み……それにキャスターは耐えることができない。


 助けてと手を伸ばそうとした。しかしその手からまた痛みが走る。目の前にいる確か名前は……忘れた。覚える意味がない。


 とにかくブースターじゃない方の手にある銃のようなものから煙がもくもくと上がっていた。それをやめさせることはできるのだろうか。いや、できる。


「やめてください……!わたくしは襲われて……!」

「シャラップ……少し話してわかりマース。ユーはギャンブラーに合わせてはいけまセーン……あとでいくらでも責められるから、ユーはここで退場願いマース」

「い、いや……やだ!なんでです!ブ、ブースター様!わ、わたくしは、被害者なんですよ!?は、早く止めてください!こ、こいつを!!」

「……っ」

「聞き耳を持っちゃいけまセーン。こいつはここで死ぬべきデース」


 またそのことをいう。なぜ!なぜなぜなぜ!私は神なのに!なんでこんな目に会わなければならないのだ。


「ブースター様!」

「……!」

「ブースター!」


 キャスターはブースターに掴みやり、そして彼女の顔を見る。ブースターは少しだけ怯えたような顔をしているが、もう気にしない。


「貴方には神の裁きが訪れます……!あは、あはははは!!」


 ダァン!


 その言葉を言い終わると同時にに、もう一度銃声が響いた。胸の中がぽっかりと空いたような気がする。だから早く埋めないと……



 ◇◇◇◇◇


 ☆ガンナー


 キャスターの胸を撃ち抜いた。はずだった。だが、彼女は血を身体中をから流しながらも、どこかに走り去っていった。


 あの様子じゃ、すぐに野垂れ死ぬだろう。


 先ほどあった時もすでに血を多量に流していた。それなのにこんなことができる彼女の精神力というか、生命力だけは、褒めてもいいかと思っていた。


 チラリとブースターを見ると、彼女は青ざめた顔で俯いていた。気にしすぎだろうとは思うがこのまま活動に支障をきたしたらそれはそれで厄介だ。


 なんて声をかければいいか、ガンナーには思いつかない。なるべく気にしないふりをしながらも、念のため、一声かける。


「ブースター……気にしちゃだめですヨー?」

「……うん」


 それいこうブースターから言葉はなかった。ガンナーはため息をつき、ここにブースターを放置するわけにもいかないので、彼女の手を引いて歩き出す。


 されるがままというのは、やりやすくありやりにくい。杞憂に終わればいいが、と。ガンナーはそう考えていたのだった。



 ◇◇◇◇◇



 ☆キャスター


「はぁ……はぁ……」


 キャスターは血を吐きながらも、歩き続ける。神である自分がこんなところで死ぬわけないと、勝手に思っているから。


 とにかく体を休めて、仲間を探さないといけない。キャスターはだんだんと薄れゆく意識の中で、そんなことを考える。


 神になるためには必要なことなのだろう。彼女はそう考えてはいた。が、こんなにきついなら、神にならなくてもいいかもしれない。そうとも考えていた。


「あっ……」


 ずるりとキャスターは転がり落ちる。ごんっと地面に体を打ち付けて、頭が体全身に走り出す。


 痛いなんて、言えなかった。とにかく彼女は助かりたかった。自分を救いたかった。この気持ちに何か間違いがあるだろうか?


 私は神なんだ、神に近い存在なんだから、助かる。狂ったような笑顔を浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。もう彼女は死んでもおかしくないのに、精神力だけで、そこにいる。


「わたくしは……あは、あはひはは……」


 その時、体全身に何かの振動を感じ始めた。キャスターは、きっとこれは力が目覚めた印だと思う。そして今度は体が熱くなってくる。


 そうだ。私は神なんだ。きっとこの振動に身を任せたら、大きく変わる。近い存在から、きっと手の届く存在に変われる。


 彼女の視線に入ってきたのは遠くから大きな光。そして、風を切りながらこちらに向かってくる物体。これはきっと神になる儀式なのだ。そう思うと、ワクワクが止まらない。


 あぁ、あぁ!!これで私はきっと——


「神に——」


 その瞬間、光とキャスターはぶつかり、あたりにキャスターだったものが、散らばった。太陽はそれを気に留めずにゆっくりと登っていく。


 朝は終わる。そして、彼女の夢物語もここで終わる。ただ、それだけであった。

 ◇◇◇◇◇


【メールが届きました】

【神は電車で死ぬのかな?でも最後には大きく羽ばたけたからきっとあの魔法使いは幸せだね!】

【あと11!朝も終わりそうだし、目覚めの運動に殺さない?】

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