3-11【わたくしからの命令です】

 ☆ヒーロー


 少女は囚われていた。暗い、空間の中に。抜け出すための道は、ただひたすらまっすぐに。されどその先には何もなかった。


 歩きたくない、拒絶しようとしてもその足は誰かに無理やり動かされる。一歩。また、一歩と。その誰かにに抗おうとしても、そんなことは許されなかった。


「やめてよぉ……もう、いやだよ……」

【さぁともに歩みましょう】

「いや……!やめて、だれか……助けてぇ……!」


 彼女は手を伸ばす。しかし、その手は虚空をつかむだけであり、何か反応などは何一つなかった。


 もうこの道を歩くことしか許されないのか。自分はそれを受け入れないといけないのか。そうすこしだけ思えば思うほど、だんだんと意識がそちらに傾いて行く。


 この先何人傷つけて行くのだろう。この道を歩き始めたのは確か、森の中でキャスターと会った時だ。それから先、ずっとこんなところを進んでいる。


 もう何も分からなかった。自分が自分じゃなくなる気がして、死にたくなってきた。そんなこと、普段は望まないのに。


 ふと、全身に激痛が走った。体が真っ二つに切断されており、ああ、これで死ねるのかな?とどこか他人事のように考えていた。


 だが、ちぎれた体は誰かに引きずられてしまう。内臓が。血肉が、骨の残骸が彼女が進む道を作って行く。もう嫌だと言っても、引きずるこれは、止まってくれなかった。


 もうダメなのかな。諦めてその流れに身を任せようとした。それが正しく思えたからであり、何も間違いないとも思っていたから。


 そのときだった。


「——様。ヒーロー様」

「……だぁれ……?」


 突然声が聞こえてきた。その声がする方はわからないが、なぜかその声は自分に安心感を与えてくれた。


「わたくしからの命令です」

「めい、れい……」

「ヒーロー様——負けないで」

「負けない……?」

「負けないでください。わたくしからの命令は以上です。さぁ、ヒーロー様——」

「あ、あぁ……」


 そのときヒーローの前に、一人の少女が立っていた。槍を背にして、こちらに両手を広げていた。それをみたとき、ヒーローは何も考えずにそこに向かって進もうとした。


「かみ、さまぁ……」


 引っ張る誰かの力はなぜか緩んだ。だから進めた。そして、その少女の胸に飛び込んだ時、幸福感に体を包まれて。なんだかとてつもなくヒーローは……


「僕は……僕……は……」


 救われたような気がしたのだった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆ブレイカー


「ランサーさん!ランサーさぁん!!うわぁぁぁぁぁん!!」


 パペッターが転がっているランサーの死体に抱きついて、泣き始める。その声は悲痛と取れるほどであり、ブレイカーは彼女に少し同情を覚えた。


 それとは対照的に、地面の上に寝転がっているヒーローは、先ほどのような恐ろしさは感じることができず、逆にただの女の子にしか見えなかった。


「……謝って済むことじゃないと思うけど、みんなごめん」


 ヒーローの謝罪の言葉。それをうるさいといって切り捨てることもできよう。が、しかし、意外なものから許しの言葉が出てしまい、それができなかった。


「ゆるじまず……ランザーざんなら、ぎっど……ゆるずからぁ……!!」


 パペッターがそういうならば、もうなんとも言えない。その後もう一度ヒーローが謝罪の言葉を述べて、それでこの話は終わった。


「……ランサーさんは、何をしたんですか?」


 近くにいたガードナーに声をかける。彼女は腕を組みながら、ランサーの死体を見つめていた。そして、ゆっくりとくちをあける。


「キャスターの洗脳に対し、ランサーのは自身のスキルを使い、それを上書きをした。その結果が今……大した奴だ。本当にここにいる全ての人間を救ったんだからな」

「ガードナーさんでも人を素直に褒めるんですね」

「……ふん。単細胞クソ猫が。君がもう少しまともになればほめてやらんこともなくはなくはなくはないがな」


 どっちだろう。そう思っていた時だった。ヒーローが大きく咳き込んで口から多量の血の塊を吐き出した。


 セイバーが慌てて駆け寄ろうとしたが、それをヒーローが止める。彼女の体からは徐々に血が漏れ出してきていて、もう限界が来ていたことがわかった。


「僕ね……間違ったことばかりしたと思う。勘違いから始まったその罪からも、僕は負けない……負けちゃ、ダメなんだよね」

「ヒーロー……」

「そんなかお……しないでよ……僕、敵だったんだから……死ぬのは……怖くないんだから……うん……」


 ヒーローはそう言って乾いた笑顔で空を見上げる。ゆっくりと登っている太陽に向かって手を伸ばす。


 届くはずのないのに。なぜか届いて欲しいとブレイカーは思っていた。おそらく辺りにあるすべての人物がそう思うだろう、


 諦めたのか。それともようやく見つけたのか。ヒーローは指一本一本確かめるように曲げて行き、その手を閉じる。


 風が一つヒーローの上を通る。その風に乗って、ヒーローのつぶやきがブレイカーの耳の中に入って来た。


「やっぱり……死にたく、ないなぁ……」


 その呟きを最後に、ヒーローは伸ばしていた手をゆっくりと地面に下ろした。ぽすんと、した音が辺りに響き、やがてその音も消えていくのだった。


 ◇◇◇◇◇


【メールが届きました】

【正義の操り人形死んじゃった!誰が殺したんだい?それは剣士様!誰が次に殺したんだい?それは槍の王女様!

【あと12だね!そろそろみんなこの空気になれたかな?】

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