3-10【——負けない】
☆キャスター
「……ふん。何をやろうかとおもえば……ただの自己暗示だけでヒーロー様に勝てるわけがありませんわ」
キャスターはそう言ってため息をつく。ランサーは息を吐き、槍を構える。しかし、彼女がいくら秘策を用意してもヒーローに負けるはずがないと思っていた。
なんせ彼女には神の使いであるキャスターの力がかかっているのだから。神を否定した無礼者なんかに遅れをとるはずがない。
「ヒーロー様。早く殺しましょう!」
「ウん」
ヒーローはキャスターの言葉に反応して、一気に走り出す。その速度は、今まで以上であり音を置き去りにしたと言っても過言ではなかった。
ドン!!もはや爆弾が爆発したかのような音がして、爆風によってキャスターたちは吹き飛ばされる。
セイバーたちも同じように飛ばされた。その中心にいるランサーが無事なわけがない。キャスターは勝利を確信して吹き飛ばされながらもにこりと笑う。
が——
「……なぁ!?」
そこにランサーは立っていた。槍で全身を支えながら。衣装である魔法少女としての鎧が半分以上吹き飛ばされていても、彼女はそこにいた。
彼女の肉体があらわになる。だが、白い透き通っていたであろう肌は、黒く焦げていて、あちこちで肉が溶けていた。
「……な、なぜ……ヒーロー様!早くトドメを!!」
「ウん」
そう言ってヒーローはランサーに向かってなんども攻撃を繰り出した。突き。回し蹴り。アッパー。かかと落とし。思いつく限りの乱撃を繰り返す。
だが、ランサーは一歩も動かない。それどころか、何か言葉を繰り返していた。その声は小さく上手く聞き取れなかったが、なぜか、なんと言っているかがわかってしまう。
「——負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない——!!」
その瞬間、ランサーはヒーローを槍で薙ぎ払う。こんな攻撃、ダメージがあるはずがない。あるわけがないのに、ヒーローは槍ではじかれた。
土を削りながら、彼女は転がる。起き上がる瞬間に、ランサーはヒーローに向かって槍を突き下ろした。
ヒーローは体をずらし、それを急所に当たらないように調整する。が、肩は貫かれたらしくあたりに鮮血が飛び散る。
そのままランサーは顔を狙うが、ヒーローはそれを掴む。そしてそのまま槍をハンマーのように使い投げ飛ばした。
吹き飛ばされているのをみたヒーローは一気に走り出す。まだ空中にいるランサーのみぞおちに拳をめり込ませ、そのまま突き破る。
そしてもう片方の腕でランサーの頭をつかみ、強引に地面に叩きつけた。飛ばされた勢いもあり、そのままランサーの顔は削られていく。
血の道が途絶えたとき、ヒーローは立ち上がる。目の前にいるのは、ボロ雑巾のようになったランサーがそこにいた。
「は、はは……ヒヤヒヤさせてくれますね……さぁ!さぁさぁさぁ!!ランサーを殺せ!ころせぇ!!」
「ウん」
ヒーローはそう言って大きく上空に飛ぶ。あの構えは、確かいわゆる必殺技。あの攻撃を受けて耐えられる存在なんていない。
「ウん」
そしてヒーローはランサーに向かって落ちる。まるで流星のように、ランサーの体にぶつかる瞬間に、先ほどより巨大な爆発を起こした。
その爆風によってキャスターの横に何かが飛んできた。それは、ランサーの腕だったものであり、キャスターは恍惚した表情でそれを踏み潰した。
爆発による砂煙が消えていき、そこにはヒーローが立っており、彼女の足元にはボロボロに、そしてぐちゃぐちゃになったランサーだったものの姿があった。
もはや原型を留めておらず、まるでそれは肉の塊だ。先ほどキャスターが踏み潰したランサーの腕。これで、彼女を形取るものは全て消えたということは、キャスターにとって大変喜ばしいことであった。
それと同時に来るメールの通知音。その音を聞き、キャスターはにこりと笑う。ランサーは死んだ。それは確定した。
「よくやりましたわ、ヒーロー様。さぁ、残りを殺しましょう」
「うん」
返事を聞き、キャスターは両手を広げて歩き出す。このまま褒美として抱きしめるくらいはしてやろうと、考えていた。
「ふ、ふふふ!さぁ、私たちの願いを叶え——」
グチャ
何か近くで音が聞こえた。そして、キャスターは体全身が熱く燃えていくような感覚にとらわれた。何かと思うと同時に、キャスターは口から何かを吐いた。
それは、自分の服をだんだんと赤く染めていく。奇襲かと思い、ヒーローの方を向くと、彼女の手も赤く染まっていた。
「な、に……が……」
「……キミは……神の使いなんかじゃない……そういうこと、だよ」
「は……?」
ヒーローに追求しようとした瞬間、キャスターはヒーローに殴り飛ばされる。グチャっと音がなり、キャスターの体は木に叩きつけらた。
ヒーローに攻撃された。なぜ?今は一つもわからないが、こちらに向かって歩いて来るヒーローの姿を見て、キャスターは恐怖を覚えていく。
「ひ、ひぃ……!!いやぁ!!」
そしてキャスターは走り出した。恐怖に負けていることなんて、認めたくない彼女は、この逃げは神の使いである自分を逃がすためのヒーローの策だと、勝手に思い込んでいた。
◇◇◇◇◇
【メールが届きました】
【槍の女王が正義の味方にボッコボコ!あんなに可愛い顔がもう何も残ってないなんて悲しいね!】
【あと13人だね!もっともっところしあおうね!!】
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