3-9【この試練を乗り越えて、願いを叶えるのです】

 ☆ランサー


 きっとわたくしは、馬鹿なんでしょうね。これからやることが、わたくしにどう起こるかわかっているのに。


 あぁ、やめてくださいまし。ガードナー様。わたくしのことをそんな目で見ないでください。せっかく決心したのにやりたくなくなってきます。


 あぁ、パペッター様。本当に申し訳ないです。貴女様を守ると誓ったのに、これから先は無理みたいです。


 わたくしが起こすのは、ただの奇跡の延長線上のようなこと。でもこれできっと、皆さんを救うことができますわ。


 さっき一瞬だけ見えたヒーロー様の顔……あの方は、とても辛そうでした。あの方は、きっと……


 ……槍の先端に映るわたくしと目が合いましたわ。ふふ。おかしな顔ですわね。本当に、おかしな顔。


 でも、おかげで決心がつきました。他の誰でもない、わたくしがやりたいというのです。ならば、それを尊重しましょう。


 それにわたくし気づいてしまったのですわ。この戦いに参加したわけ。そして、消えた記憶の内容。


 奇跡が起きて、それが終わりそうだからでしょうね。なんとなく気づいたのです。えぇ、ですが……この事はわたくしの胸に秘めておかなければなりません。


 これは残酷な選択なのでしょうか?そうかもしれません。けれど、一つだけ確かなことがありますわ。


 わたくしは、この瞬間のために生き延びていた、と。


「では——行きましょう」



 ◇◇◇◇



 ☆セイバー


「ぐぅ……!!」

「ははハはは……!」


 ヒーローの攻撃に対し、セイバーたちは防戦一方だった。何もかもの能力が、二人を上回っているため、こちらは何もできない。


 剣でヒーローを捉えたと思い斬り伏せようとしてもヒーローは一瞬で自身の後ろに回り込み、そのまま蹴り飛ばす。


 ゴギリと骨が折れる音がして、セイバーは吹き飛ばされる。あばらが折れたような気がして、震えながら口から血を吐く。


 ブレイカーの方ももう限界を迎えているらしく、猫の手を支えに立つしかできない。対してヒーローは何一つ顔色を変えずにそこにいた。


 彼女にダメージは何度も与えてるはず。腕だって切り落としたし、ブレイカーだって彼女の顔を叩き潰した。だが、その度にヒーローは起き上がる。


 不死身のヒーローとなったのか。おそらくは違う。こうなっているのはあそこでこちらをニコニコみているキャスターによるものだ。


 彼女の言葉。我々は神の使い。それがここで負けるはずがないという言葉にヒーローは強く反応して起き上がる。


 洗脳なんて、そんな生易しいことが起きてるわけではない。今起きてるのは、ただキャスターの自己満足のための、残酷なショーだ。


 こんなのに付き合わされているヒーローにはもはや同情を通りこして、キャスターに怒りを覚える。が、その怒りはすぐに消えてしまう。


 キャスターがこちらに語りかけてくるその声。それに耳を傾けたくなくても、心に直接響く。だからこそ、キャスターに攻撃ができないのだ。


 ヒーローも倒せない。また、キャスターに敵意を向けることすら、許されない。逃げられることすら、できるとは思えない。


「きみタちをこロして、ぼくはほんトうにセイぎのみかタになるンだ……」


 彼女は焦点が合わない目でふらふらと歩いてるだけ。そして隙ばかり。だが、勝てる気はしない。


 どうする?ここで全員本当に殺されてしまうのか……セイバーが覚悟を決めかけていた、その時だった、


「……ランサーさん!?」


 驚いたブレイカーの声にそこを見ると、確かにこちらに歩いてくるのはランサーだ。彼女と目が合い、にこりと微笑んだ。


「神の意志に逆らうのですか?そんなこと、我々は許しませんよ」

「……まさか、逆らいませんよ」

「ならばなぜ槍をこちらに向けてらっしゃるのです?」

「えぇ……わたくしは神に逆らいません。でも残念。わたくしの神は貴方ではありませんので」

「……は、ははは!!面白いことを言いますね!ならば……さぁ、ヒーロー様。二人で全ての神を超えましょう!!まずはこの試練を乗り越えて、願いを叶えるのです。全知全能の神になると!」

「そうダネ……かみにナらないトネ」


 ヒーローは笑う。キャスターも笑う。対して、ランサーも笑う。しかしランサーの視線は槍の先端に向かっていた。


「行きましょう……わたくし。戦いましょう……わたくし。全てを救いましょう……わたくし。戦いましょう……わたくし」


 瞬間だった。ランサーの体が強く光り出したように見えた。しかし、その中にランサーの体はどこか神のような神々しさを感じたのだった。



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