3-8【ここにいるみなさまを救いたいのです】
☆ヒーロー
痛い。怖い。嫌だ、いやだ。もうなにもしたくないのに、なんで?なんでなんでなんで。
「みんなを殺しましょう。そして我々が神の使いであることを示すのです」
いやだ。誰も殺したくない。もう殺したくない。これはゲームじゃないんだ。ごめんなさい。もうあんなことしません。もう誰も迷惑をかけません。
「うん、わカったよキャスター」
嫌だ。わかりたくない。こんなことしたくない。速く、終わらせてほしいのに、なんで。なんで。
「ええ、ええ。それでいいのです。我々は神の使い……負けることなどあり得ないし、許されません」
やめて。もう僕に声をかけないで。許して。ごめんなさい。もう悪いことしませんいい子になります。苦しい。痛い気持ち悪い。速く、速く助けて。
なんでこんなところに僕はいるの?僕が悪い子だから?そうなんだよね。いい子になるよまだ間に合うよね間に合ってよ。
嫌だ。嫌だ。もう苦しい顔を見るのはいやだ。やっと解放されるって思ったのになんで。僕はもう死にたいんだ。これはリアルってわかった上で、僕は。なんでそれだけのことを神様は認めてくれないの?
ねぇ、お願いだから、誰でもいいから。もう悪魔でもいい。死神でもいい。だから速く、僕を、僕を僕を——
「こロすよ」
殺して
◇◇◇◇◇
☆ガードナー
「くそっ!!」
完全にしてやれた。キャスターのスキルは声を聞かなければいいと踏んだのに、まさか本当に直接心に語りかけたくるとは。
どんな結界も突き抜ける洗脳の言葉。そんなものに抗えるような人間なんておそらくこの世にいないだろう。だが、キャスターの暴走を許したということは、ガードナーのプライドを深く傷つけた。
とにかく援護に行かなければ。キャスターによって動かされてるヒーローはもうリミッターが外れたような動きをしている。
セイバーが隙をついて腕を斬り落としても次の瞬間、彼女の腕は生え、そのままセイバーをなぐりとばす。ブレイカーの攻撃もきいてないみたいだ。
元を立たなければ。ガードナーはキャスターの方を向きスキルを発動しようとする。結界で囲んでしまえばあとは爆死させればいい。
だが——
【私たちに歯向かうというのですか?】
「ぐぅ……!!」
【愚か者めが。恥を知りなさい】
腕が止まる。彼女に向かってスキルの発動ができないのだ。
ガードナーから見たキャスターはまるで慈愛に満ちた母親のようであり、はたまた愛らしい赤ん坊でもあり、かと思えば恐ろしい悪魔に見えてしまう。
おそらくスキルを使いそう思わせているのだろう。故に、戦おうという意思はできてもそれを本能が無理やり止めるのだ。
(この僕が……!!この僕がぁ……!!)
強い屈辱を覚え歯ぎしりをする。しかし、がーどなーにもどうにもならないことだってあるのだ。ここはと、ヒーローの方に視線を合わせる。
しかし、彼女のスピードはガードナーの目で追うことはできない。右かと思えば左。かと思えば上。かと思えばまた右……相手にしているセイバーたちのような戦闘職ではないのだから、戦えないかも無理はない。
だがそんなことガードナーは許せない。なにか、することは。できることはないかと自問自答を繰り返す。が。
「……僕は、この瞬間は限りなく無力……」
その事実。ガードナーは違うと言って切り捨てたいものだったが、現にそうなっているのだ。ならば認めるしかない。
「ガードナーさん!」
いつのまにか近くに来ていたパペッターとランサーがガードナーに駆け寄る。ここは、逃げた方が得策だと、誰でも考えられた。
「……ガードナー様。ここは、わたくしにお任せください」
「何をする気だ。返答次第では任せれない」
ランサーが一歩前に進む。槍を構えて、ヒーローたちを睨み見た。もうボロボロなはずなのに、彼女はなぜ戦うのだ。
「……わたくしは民を守る王女。そして、その民に危害になりそうな存在は消すべきなのですわ」
「キミはまさか……やめろ。そんなことしたら……!」
「大丈夫ですわ。わたくしすでに死んでいるようなもの——そんな奇跡の上に立っております。この先起こすのは、その奇跡の延長線のようなもの。それにわたくしはもう……」
そう言ってランサーはこちらを見る。彼女の目からはもう光は消えていて、ガードナーは確信してしまっていた。
「……わかってくれましたか?ここにいるみなさまを救いたいのです。そしてわたくしならな、皆を救えるのですわ」
「そんな……!ダメですランサーさん!そんなこと、そんなことさせな——」
彼女を止める言葉は思いつかなかった。だからここでできたのは、パペッターを結界で囲うこと。
「……すまない。僕も、それしか勝ち筋が見えない」
「謝らないでください……代わりに、パペッター様を頼みましたわ」
「あぁ……」
ドンドンと、結界から聞こえる音を背にしながらランサーは歩き出した。ガードナーはただ見ることしかできない自分に対し、強い苛立ちを覚えていたのだった。
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