3-7【ここで何もできないなんてそれは嫌……!!】
☆ブレイカー
ガードナーが何かをしたらしい。というのは遠目でも見て取れた。そして彼女の反撃宣言の言葉と同時にヒーローの動きがガクンと悪くなる。
それに反比例するようにブレイカーたちは動きが良くなる。相変わらずセイバーは警戒してうまく動けてないだろうが、ブレイカーは関係ない。
警戒するということは、こちらを敵とみなしているかもしれないが、それは自分を敵だと言ってないようなものだ。味方をする気だからこそ、こちらを疑っている。
めちゃくちゃな理論かもしれないが、
(……きっと孤独なんかと無縁な世界で生きてきたんでしょうね。私とは違って……)
羨ましくはある。が、そんな状況だからこそセイバーは自分を襲わないという確かな確信もある。だから、強くヒーローに攻めることができる。
「はぁっ!」
ブレイカーのスキルは、その大きな猫の手のようなハンマーにある。これで殴ったスキルは無効化される。
だからこそ、ヒーローを殴ればスキルが消える……と、踏んでいたのだがそんな傾向は一切ない。ダメージは入っているようが、変身したスーツが壊れて行くように見えない。
「く、そ……キャスターが……!」
ヒーローは動揺しつつも、こちらに拳を突き出す。それを受け止めるという愚策はしない。
後ろに大きく飛んで、そのまま距離をとる。その代わりに前に突っ込むのがセイバーだ。一瞬遅れたが、それでも十分にタイミングは合っている。
だがヒーローは向かってくるセイバーに臆することもなく拳を突き出した勢いのまま前に踏み込んだ。そして、セイバーの剣を避けて彼女の腹に拳をめり込ませる。
勢いのついた一撃。セイバーが口から血を吐き、そのまま飛ばされる。彼女は心配だが、今はヒーローが優先だ。
「キャスターの力がなくても、お前達なんか!」
だが、悲しいかな。ブレイカーの攻撃は基本的に大振り。素早い動きができるヒーローにはうまく攻撃が当たらない。
(でも、ガードナーが色々やってるんだ……!ここで何もできないなんてそれは嫌……!!)
大振りの攻撃をどうやって当てればいい?考えろ。考えて見つけろ……きっとガードナーだって考えて答えを見つけたんだ。同じようなことくらい、やってやる。
ブレイカーの武器は先端が重い。故に一撃は強力だが、攻撃には大きな隙ができてしまう。
逆にヒーローはどうだ?一撃は重く強力。それに攻撃は基本拳の一撃などといった体術。つまり、ブレイカー以上に早く動けて、ブレイカー以上の一撃を叩き込まれる。
(何これチート?)
もしかしたら、ヒーローはこの中で一番強いのではないだろうか。だからと言ってここで逃げるわけにはいかない。
「ブレイ、カーだったか……?」
後ろから聞こえてきたセイバーの声に対し、コクリと無言で頷き肯定する。セイバーは血を吐き、剣の鞘に手を当てる。
「2〜3秒でも……いいから……隙をつくって、くれ」
「……わかりました」
「たのん、だ」
とは言っても、何ができるだろうか。隙を作るのはかなり難しい。そもそもこちらが隙しかないのだから。
(あ、そうか)
ブレイカーは一つの答えを見つける。そうか、逆転の発想だ。相手の隙をつくれないなら——
◇◇◇◇◇
☆キャスター
「……なんと無力」
おそらくここでいくら叫んだらしても、ガードナーに声は聞こえないだろう。キャスターのスキルは声を聞かせることで効果を発揮する。
なんとか声を聞かせてこちらが正義の味方だとわかってもらい、そして死んでもらわなければならないというのに。
「……いや。私は諦めません。そうですわ……我々は神の使い……この場全てを平和に終わらせるために使わされた……」
キャスターはそう考える。するとどうだ、体に強い力が湧いてきた。もしかしたら真理に気づいたことを褒めてくれた神からの褒美かもしれない。
「あぁ……我が主よ!我の願いを聞き入れたまえ……主の願いを叶えるために、我に力を……!」
その瞬間、体がとてつもなく熱くなる。そして、その熱の中キャスターは悟ったのだった。
私は神に近い存在であり、神の使いでもあるのだろうと。
◇◇◇◇◇
☆ヒーロー
(はやく、キャスターを助けに行かないと……)
ヒーローは焦りだす。キャスターの援護がなくても負ける気はしないが、それはキャスターは違う。彼女はきっと震えている。
正義の味方は正義の味方を救わないといけない。だから目の前にいる悪を早く倒さなければ。幸い、猫っぽい格好の方の一撃はあまりにも遅い。
当たる方がバカというものだ。剣士の方は素早いが一撃は軽く当たっても痛くない。故に負ける要素はない。
その時だ。ブレイカーの攻撃を避けた瞬間、彼女の武器が地面にめり込んだ。それに気を取られているのだろう。彼女は動きが止まる。
「——今!」
ヒーローは踏み込み、駆け出す。そして、ブレイカーに向かって拳を突き出した。それはブレイカーの顔に深く突き刺さった。
鈍い音が聞こえた。ヒーローはこの一撃でブレイカーはもう死んだ。そう思いニヤリと笑う。
「知ってますか——」
「な!?」
血を流し、片目も潰れ鬼のような睨みを効かせながらこちらを向くブレイカーはヒーローの腕を掴む。
「ひぃ!?」
「——頭蓋骨って銃弾でも貫けないんですよ?」
ブレイカーの力を強くヒーローは動けない。離せと叫ぼうとした瞬間、強い殺意を感じる。その殺意の方を向くと、そこには剣を構えたセイバーがいた。
◇◇◇◇◇
☆セイバー
「ブレイカー……よくやった」
「や、やめろぉ!!」
「——斬る——」
その言葉と同時にセイバーの剣がヒーローを斬り伏せる。赤い血があまりに飛び散り、剣を滴り地面を濡らす。これで終わりかと、思う。
殺す気なんてなかったなんて言わない。殺す気じゃないと負けてしまうのだから——だが、やはり感覚は気持ち悪い。遅れ吐き気が襲ってくる。
「……やるもんじゃないな」
【えぇ、貴方は我々を邪魔したんですもの】
突如、頭に声が響く。この声は、確かにあの少女。しかし少女の声はもう誰にも届かないようにガードナーが対策をしたはずだ。
ガードナーの方に視線を向ける。彼女は先ほどの強気な態度とは打って変わり、青ざめた顔で首を横に振っていた。
彼女の結界はいつの間にか溶けていて、その中から一人の修道女がこちらに向かって歩き始めていた。
【我々は正義の——いえ、神の使者。我々の望みを邪魔するということはつまり——】
「な、なにを……!?」
【貴方方は悪ということですわね】
キャスターはニコリと笑う。彼女は口を開けていない。つまりはテレパシーのようなものでこちらに声をかけているということなのだろうか。
歯向かうために剣を払おうとするが、体が動かない。まるで本当にキャスターが神のように見えてしまうから。
「さぁ、ヒーロー様……まだ終わりではありませんよ?私たちはまだ戦えますよね」
「……や、めろ……その少女は、もう……」
「いえ。神々の使いがこんなところで死ぬわけございませんわ。ねぇ、ヒーロー様」
「だ、から……」
「……は、はは」
声が聞こえた。その言葉とともに致命傷を負ったであろうヒーローがゆっくりと立ち上がる。よく見ると、体の傷もだんだんと修復されて言ってるようにも見える。
「そう、だヨね……僕ラは……正義の味方……そして神様ノ使いなんダ……」
呂律の回らない舌でヒーローは喋る。そして、小さく笑いながらキャスターの横にたち、拳を構える。
そんなヒーローを見ながら、キャスターはくすりと笑う。そして、キャスターは口を開けた。その一言は、とてつもなく重くのしかかった。
◇◇◇◇◇
☆キャスター
「反撃開始ですわ」
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