3-4【ここにやっぱり人がいましたわ!】

 ☆ランサー


「そんな……スペクター様が……」


 パペッターをベッドの上に寝かせながら、ランサーは届いたメールを見て驚愕する。パペッターをここまで追い詰めた相手が自殺を選択したというのだ。


 もしやパペッターをここまで追い込んだことを気に病み、そして自殺を?と考えるがおそらくそれはない。なんせ彼女は他の誰よりも優勝を目指していたのだから。


 つまり自殺に追い込まれるがスペクターに降りかかったということ。それは、記憶を取り戻したいという希望をかき消すほどの、絶望というのは想像がつかない。


 スペクターに対しては心の中で黙祷を捧げる。こちらに襲いかかったと言えど、同じ巻き込まれた被害者なのだから。


「……セイバー様。おきてます?」

「勿論。そろそろここから動いた方がいいだろうからな」


 セイバーはそう答える。パペッターが叫び声を上げた時、周りに聞こえたと考えるべきだ。この病院も今は安全だがおそらくそうではなくなるだろう。


 一刻も早く動くべきだ。特に、ランサーが動けるうちにパペッターを安全な所へ。そう考えているとパペッターを寝かせたベッドから音が聞こえてきた。


「パペッター様!もうおきても大丈夫なのでございますか?」

「……あは、ランサーさん。うん。大丈夫だよ」


 パペッターはそう言って虚ろな目をこちらに向ける。何があったか聞きたかったが、それよりも先に気になることができてしまった。


 ……前にも話したが、ランカーは人を見ればその人なりがなんとなくわかる。善人悪人。その二つだ。


 前回までパペッターは悪とも善とも取れない存在で、つまり普通の人間だと思っていた。今まであってきた人間は必ずどちらかに傾いていたため、珍しくとも覚えていた。


 しかし今は違う。少しだけだが善の方に傾いているように見えた。なにか、スペクターに襲われて心変わりが起こることでもあったのだろうか。


 善の方に傾いたなら、気にすることはないはず。なのに底しれない不安を覚えているのは、なぜだろうか。


「ランサー。それにパペッター。早くここから出るぞ」


 セイバーはすでに病院の外に向かって歩いていた。ランサーも痛む身体に鞭を打ち、パペッターの手を引いて歩き出す。


「……いや、そうすんなりといけない、か」


 セイバーが立ち止まり剣を構える。ランサーも彼女が向いてるところに視線を合わせるとそこには二人の少女がいた。


 一人は修道女。そしてもう一人はどこにでもいそうな少女の格好をしていた。彼女たちは不気味なほどニコニコと笑ってこちらを見ている。


「言ったとおりでしょう?ここにやっぱり人がいましたわ!」

「すごいよキャスター!じゃ、殺そっか」


 彼女たちがなぜここにきたかわからない。しかしランサーの目には二人は悪ではなく完全に善の方に傾いてるように見えた。


 だが。それでも今回だけは自分の目は信用してはいけないと、本能で理解してきたのだった。

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