3-5【正義の味方をなめるな】

 ☆セイバー


 ヒーローとキャスターか。


 あの感じからして、おそらくキャスターはヒーローを利用して何かをしようとしている。しかし、彼女の言葉やオーラからは悪意を感じない。


「えっと……とにかく殺して優勝するんだよね?」

「えぇ。そして、願いを叶えましょう。ここで死んだ魔法少女たちの記憶を消して蘇られせてくれと!」

「……クソが」


 おそらく善意100%で行動している。そのことに間違いはない。しかし、彼女の善意は他者の事をなに一つ考えてはいない。


 全て自分の世界で話している。そしてその世界を正しくするために彼女は全てを巻き込む。しかし彼女に悪意はない。だからこそ厄介だ。


「……来るなら斬る。お前たちはここで死ぬべきだ」


 セイバーはそう言って剣を構える。キャスター達は生き残らせれる意味はない。この先何もかもの妨げになるはずだ。


「いえ、セイバー様。貴女様はパペッター様をつれて逃げてくださいまし」


 だが、ランサーが言った言葉は共に戦う事を提案することではなく、セイバーとパペッターを助ける意図を含んだものだった。


 こんなところまでこの少女は人を助けようと考えるのか。しかし、今はそんなことする意味がない。ギロリとランサーを睨み付けると彼女はセイバーの手を握り、視線を合わせてきた。


「ごめんなさい……ですが、こうするしかないんですわ」

「な、なに、を……」


 その時、ランサーが何かを語りかけてきた。その言葉を理解するよりも早く、納得するよりも早く。セイバーはパペッターの手を握り走り出していたのだった。



 ◇◇◇◇◇



 ☆ランサー


 これでいいはずだ。走っていくセイバー達の後ろ姿を見ながら、ランサーは槍を構える。彼女は信頼できる存在だ。だから、パペッターを任せた。


 ……もちろんこんなところでランサーは死ぬつもりなんて、ない。今この場にギリギリで立っているのはきっと神様がそうしろ願っているから。


 息を整える。こんなところで終わっていいはずがない。私は国を引っ張る王女なのだから、国民がいないところで死ねるわけがない。


(こんなところで死んだら、皆様に笑われてしまいますしね)

「さて、ランサー様。殺されていただきますか?」

「……まさか。わたくしはこんなところで死ぬ気は無いですわ」


 ドクン。心臓が脈打つ。ランサーは別にヒーローを倒す気なんてない。目的は彼女達をここから退けることだ。


「スゥゥゥゥゥゥ……」


 息を大きく吸う。別に倒さなくていいのだ。だから、この場に混乱を起こすだけでいい……例えばだ。


「ハァァァァァァァァァ!!」


 大声を出して、誰かをここに呼び寄せればいいのだ。人が集まればおそらくヒーロー達は引いてくれる。


 だが、その人が来るかはわからない。なのでその場合のためにランサーは攻める。実力差をはっきりとさせてしまえばいいのだ。


「来るんだね!変身だ!!」


 ヒーローはその瞬間姿形が大きく変わる。まるで日曜朝の特撮ヒーローのような格好になりランサーの槍を受け止める。


 振動が脳にまで届き、そして理解する。変身した状態のヒーローは倒すことはできない。どちらにせよ倒す気は無かったが、その事実はランサーの思考を乱す。


 ランサーは受け止められた槍を引き戻し、そのまま今度は横に薙ぎ払う。ヒーローは上に飛んでそれを避けてそこから拳を突き出しながらこちらに向かってくる。


 槍で受け止めようとも考えたが、ランサーは後ろに飛んでそれを避ける事を選んだ。結果的にそれは功を制した。


 地面が爆発した。それは誇張表現でもなんでもなく、さっきまで立っていたところにダイナマイトでも仕込んでいたのかと思うほどの大きな音と共に後ろに飛んだランサーはさらに吹き飛ばされる。


「かっは……」

「ねぇ、手を抜いてたりする?……はぁ……」


 ヒーローはゆっくりとこちらに歩いて来る。口から血と唾を絡めて吐き飛ばし、ランサーは槍を構えて立ち上がる。


 体が震える。恐怖からか。先ほどまであんなに強気になっていたのに、途端に襲われる恐怖。このまま死んでしまうのだろうか。


「正義の味方をなめるな」


 ヒーローがランサーの腹を蹴り上げる。反撃する暇も与えないというよに、ヒーローはそのまま折り曲がった上半身に拳を叩きつけた。


 地面に体を打ち付けるランサー。ヒーローはニコリと笑ってランサー髪を掴みズルズルと引きずる。そして、ある程度いったところで彼女はまるで子供のような声でランサーに向かって口を開けた。


「こういうとき、ヒーローってのは必殺技を使うんだー!いくよー!!」

「くぅ、うぐっ……」

「とうっ!!」


 ヒーローは空高くジャンプする。片足が光り始めていて、そこに力を溜めているというのがなんともわかりやすくあらわされていた。


(セイバー様……あとは、任せました……)


 ランサーを目を閉じて全てを受け入れようとする。死にたくない。けれどその気持ちを叫んで、何か変わるだろうか。


 もし叶うなら、死ぬ前にもう一度セイバーとパペッターに会いたい。それだけだった。


「包囲。定礎。結」


 その時声が聞こえた。なんだと思った瞬間、自分の周りに透明な壁が発生する。それはヒーローの蹴りからランサーを守ってくれた。


 だか、勢いは止められなかったのだろう。ランサーは大きくまた吹き飛ばされるが、それは誰かが受け止めてくれた。


「……諦めるんじゃない、ランサー。まだ、早いぞ。助っ人も呼んできたからな」

「そうです。一人だけカッコつけないでください」

「セイ、バー様……それにパペッター様も……なんで……!」


 そこにいたのはセイバーとパペッター。確かにセイバーにランサーはスキルを使ったはず、ここからパペッターをつれて逃げ出せと。


「スキルなら、私が解除しちゃいましたよ」


 声が聞こえて来る。それと同時に猫の鳴き声も。その声がした方を振り向くと、そこには魔法少女が二人立っていた。


「そういうことだ……僕らもあの気狂いには用事があるからね。足を引っ張らないなら、協力させてやろう」

「上から目線は気に入らんな……間違って斬り殺してしまうかもしれん」

「まぁまぁ!喧嘩はやめましょう」

「お前達は……あの時の!」


 ヒーローが反応をする。そしてその声に応えるように二人の魔法少女は前に立ち、口を開けた。


「あの時は見逃しましたが……今度は、許しません」

「そういうことだ。何を言われた知らんが、僕らがキミを殺してあげよう。そういうことで、素直にありがとうといって死にたまえ」


 その二人はブレイカーとガードナーと言った。その二人はランサーから見ると悪意の方に傾いてるように見えたが、なぜか信じられると、そう思えたのだった。

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