3-2【貴女様の手助けをさせていただきたいですわ】

 ☆ヒーロー


 どこまで走ったのだろう。よくわからない魔法少女に襲われて、ヒーローは見たこともない森の中に立っていた。


 今はどこにいるのだろう。しばらく歩けばまた違う地域にたどり着けるかもしれない。そこなら安全かもしれない。しかし——


(誰かに殺される……!)


 これはゲームのはずなのに、先程から感じるものは全て命の危機。いや、本当はもうこれがゲームではないことはわかっている。しかし、認めたくないのだ。


 だって彼女は人の死を悲しむ者を見て馬鹿らしいと考えたから。


 だって彼女はもうすでに一人殺したから。


 だって彼女はもう戻ることができないのだから。


「フーッ——フーッ——」


 荒い息が漏れる。体がガクガクと震え始め、思わず両膝をついてしまう。これはゲームだと信じないと彼女の体はやがて壊れてしまう。


 今は彼女はギリギリなところで立っている。彼女にはまだ、十字架を背負い歩く覚悟なんて持ってないのだから。


 誰か助けてと彼女は叫ぶ。もちろん声なんて出ない。心の中でそういうしかないのだ。


 もう誰でもいい。人でも悪魔でも天使でも神でも、なんでもいい。私を救ってくれ。助けてくれ!!その思いは空に飛んで、やがて消える。


「——あら」


 そしてそんな自分に声をかけてくれたのは、ただの小さくて……だがそれ以上に大きく見える。ただの修道女だった。



 ◇◇◇◇◇



 ☆キャスター


(ふふ……)


 キャスターは内心喜びを隠していた。なんせ、ようやく救える存在に出会えたのだ。喜びに胸が包まれるのも無理はない。


 しかし、あくまで平常心を保たなければならない。変に興奮したりして、勘違いされたらそれこそ終わりだ。


 コホンと空咳をしたあと精一杯の笑顔を浮かべ、キャスターは目の前の少女……おそらく、ヒーローに声をかける。


「何かお困りですか?私が力になりましょう……」

「くるなあ!近寄るなぁ!!ボ、ボクを殺そうとするんでしょ!?そうに決まってる!!」

「違いますわ。私、人を殺すようなんてそんなこと考えたことも——」


 と、ここで気づく。もしや彼女はバーグラーを殺したとき、その重要性に気づいた結果錯乱してるのではないか?と。


 もしそれなら、やはり彼女は救う意味がある。目を閉じて、手を横に広げて一歩踏み出す。これは戦闘する気がないという意識の表れだ。


 それを読み取ったのか、怯えた顔だがヒーローは錯乱をやめてくれた。キャスターもそれを見て安心する。


「貴女様はおそらく人を殺してしまい、その罪悪感に潰れてしまいそうになってます。そして、それのおかげで周りがすべて敵に見えてしまっている……」

「……だったらなんだよ。そうだよ!ボクは人を殺した!もう、ダメなんだよ……ボクはもう戻れない。このまま人殺しの道を進むしかないんだ!!」

「いいえ、それを乗り越えれる方法がただ一つあります」


 その言葉を聞くと、ヒーローは露骨に口を閉じた。キャスターの次の言葉を待っているようで、ここまで想定通りに事が進んでいて、キャスターは内心笑っていた。


 あと少しだろう。こちらに少しでも意識を傾ける事ができたら、それこそとんとん拍子に話は進んでいく。


 キャスターはヒーローの前に立ち、そして彼女を優しく抱き寄せる。突然のことに暴れようとしたヒーローの耳元に口を近づけて、彼女はとても小さな声で言葉を紡いだ。


「私とヒーロー様以外、みんな殺せばいいのです」

「……は?」

「そして願いを叶えるのです。と」

「……」

「そうしたらどうなるか?他の皆さんは生き返り、ここに記憶が消えることであなたの十字架も消えます……貴女様は文字通り英雄ヒーローとなれるのですよ」

「……ヒーロー……」

「ええ!さぁ、共に立ち上がりましょう。貴女様の手助けをさせていただきたいですわ」

「……うん、うん!そうだよね!ボクがみんなを救わないと……!!」


 その言葉をキャスターは満足そうに頷いて聞く。これでさらに人を救う事ができる。そして、ヒーローが勝ってくれれば全てを救えるのだ。


 まさに神様だ。このまま新世界の神にでもなるのも、いいことかもしれない。と、キャスターは考えていたのだった。

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