2-19【友を守るのは当たり前でしょう】

 ☆ランサー


「ちょっと外に見回りに行ってきますね」


 病室でひと段落ついたとき、パペッターがそれを提案してきた。理由は、先ほどきたメールだろう。ソルジャーが死んだと言う知らせを受けて、焦っているのだ。


 ランサーは止めようと立ち上がろうとする。しかし、体全身の苦痛によりすぐに倒れこんでしまい、苦しく咳き込む。肺に骨が刺さってるようで、息をするだけでも痛い。


「ランサーさんはまだ、休んでください」

「で、でしたらセイバー様が……」

「パス。私はまだ寝る」


 セイバーはそれだけいってベッドに寝転ぶ。その光景を見たパペッターは小さく笑い、ランサーの方に視線を向ける。


「大丈夫です。危なくなったら、すぐ戻ってきますから。ランサーさんは休んでてください」


 そしてパペッターは病院の外に出て行く。ランサーは止めることもできずに、とりあえずといった形で治療薬と書かれたものを一気に飲み干す。


 甘くて飲みやすい味。しかし、体に大きな変化はなく、成る程【いい錠剤はまずい】と言う日本のことわざみたいなものか。なんか違う気はするが。


「これ、効果全然ないですわ。もっといいの用意していただきませんと……」


 独り言をこぼす。誰も聞いてないと思ったから。しかし、セイバーはいつの間にか起き上がり、こちらをじっと見つめていた。


「……ランサー。それ、何本目だ」

「えっと……5本目、ですわね」

「そうか。私は一本の半分でほぼ治った」

「…………」


 その言葉の意味。ランサーも薄々気づいていた。この体は無理やり動かしているようなもの。例えるなら、一度映らなくなったテレビを叩いたりして無理やり延命してるだけ。


 根本的な修理は、体に届かない。ランサーはもうすぐに死ぬか後で死ぬかの二択しか残されてないのだ。


 そんなこと、わかっている。

「……本当のことを言え。お前、後どれくらいか?」

「わたくしは……まだ、戦えますわ」

「強がりは……」

「強がりなんかじゃありませんわ!わたくしは、まだ動ける。戦える……そして、パペッター様を守れる。王女が民を——いえ、友を守るのは当たり前でしょう」


 ランサーは笑う。もちろんこれは嘘で塗り固められた、ただの強がりだ。スキルの効果がいつ消えるかなんてわからない。が、いずれ消えるだろう。


 ならば、それまでパペッターを。そして、仲間を守る。きっとこのゲームを止めるために動いている人は、多いはずだから。


(その者たちを纏める。それが、わたくしがしなければならない使命……)

「……まぁ、もう何も言わん。とりあえず休んで——」

「キヤァァァァァァァァァァ!!!!」


 二人の会話を止めるような叫び声。これはまさしくパペッターが、助けを求めている声だ。理解するよりも早く、ランサーは病院を飛び出した。


 全身が痛む。はっきりいって歩きたくない。そんな中、幸か不幸かパペッターはすぐに見つけることができた。


 その場にへたり込んで呆然としている彼女の肩に手を置く。全身震えてはいるが、命に別状はないようだ。


「パペッター様?パペッター様!!」

「あ、あぁう……あう……あ……」


 うわごとを繰り返す彼女に懸命に声をかける。落ちかけてくれたのか、セイバーがこちらにやってきて、そして声を出した。


「誰だ……そこにいるのは」


 その言葉に反応してランサーを顔を上げる。そこにいたのは、白いまるで貞子のような格好をした魔法少女。


 あれは確かスペクターか。逃げる彼女を追いかけようともしたが、それよりも先にパペッターだ。彼女の治療を優先しなければならない。


 いまだにぶつぶつ呟き続けるパペッターを背負い——その軽さに若干驚きつつも——ランサーは痛みをこらえて病院に戻って行くのだった。

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