2-20【安眠妨害はダメだよ〜?】

 ☆スペクター


「は、ははは……!!やった、やってやったわ!」


 スペクターは内心ガッツポーズをしながら走り続ける。気分が高まって、興奮もする。まさか、あぁうまく行くとは思わなかった。


 スペクターのスキルはトラウマの想起。そしてそれをパペッターに使い、その結果がアレだ。喜ぶなと言う方が無理だろう。


 このまま皆にトラウマを想起させたら無力化ができ、さらに言えばこれさえあればジョーカーすら簡単に倒せるのではないか?


(……そうよ、あくまで目的はジョーカーを殺すこと……もう何人か死んでるのだから、無理に無力化に勤めずここは本命を狙うべきね)


 包丁を握る。今なら誰でも殺せそうな気がしてきて、心の中で大きく笑う。これは慢心か?いや、違う。これは結果。己のやったことで行き着いたゴール。つまり慢心ではないのだ。


「……っ!?」


 その時、人影が目の中に飛び込んできた。まるで警戒心がないですと言ってるかのように木陰に寝転ぶその服装は見たことがある。


(あれ……ジョーカー……!?)


 思わぬ標的の発見に興奮を隠せない。包丁を握る力を込めてゆっくりとジョーカーに近づいて行く。


 聞こえる音は木々が揺れる音と、ジョーカーの寝息。その中に自分の心臓の音は聞こえない。つまり平然としているのだ。


 包丁を振り上げる。彼女を殺し、記憶を取り戻し、ついでに願いを叶えてやる。そう決心して、彼女は包丁を振り下ろした。


 がんっ


 肉体に刺さった感覚はない。くるのは土が飛び散ることのみ。それを顔に受けてスペクターは思わずめをとじる。


「安眠妨害はダメだよ〜?」

「っ!?ジ、ジョ——」


 スペクターが声をかけるよりも早く、ジョーカーはスペクターを蹴り飛ばす。いつのまにか背後に回っていたと言うのだ。


 ケホケホと咳を繰り返し空気を吐き出す。まだ負けてたわけじゃないと自分に言い聞かせる。トラウマを想起させれば、チャンスは十二分もある。


「くらえっ——!」


 手を前に突き出す。能力の発動は簡単だ。これを向けた先にある人物のトラウマを想起させる。それだけだ。


 だが、もうすでに目の前にはジョーカーはいない。違和感を覚えると同時に、両手を誰かに掴まれる。


「捕まえた〜♡」

「なっ!?は、離しなさい——!!」


 ジョーカーがクスクスと笑う。当てさえすれば勝てる。そんなことわかってるのに、なぜジョーカーには当てる事すら出来ないのだ。


「まぁ、スペクターちゃんはもう仕事してくれたし……うん。そうだ、最後にさ見てみようよ」


 ジョーカーはそう言ってスペクターの両手を無理やり頭につける。瞬間走る恐怖。これでは、トラウマを想起するのは——!!


「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫び、この気持ちを消そうと模索する。しかし、それは叶わず。頭に流れ出すは、無数の記憶。それ一つ一つが、スペクターの頭をキリキリと締め上げて行く。


「——え?」


 しかし、そこにも違和感がある。なんせ、だって。この思い出してる記憶は——


「私の、高校時代……?」

「くすっ、思い出した?その記憶を持って、どうするかは……スペクターちゃん次第だよ」


 違う。なんで、うそ。これが大切な記憶な訳がない。汚され傷つけられただけのこの記憶は嘘の記憶か?いや、こんなにリアリティがあるのは嘘とは思えない。


 私はこんなものを取り戻すために戦ってたのか?嘘。うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ。


 あ。あぁ、ああぁああ。あぁあぁあぁああぁぁぁあああぁぁぁあ。ああぁぁあ。あぁ、あぁあああぁ。ああぁぁぁぁ、あぁぁぁああ。


「んー?聞こえてるかなー?聞こえてないかなー?」


 あぁぁぁああ。あぁあぁああぁぁ。あぁあぁあぁああぁぁぁあああぁぁぁあ。ああぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁああぁぁぁ。


「あー……ダメっぽいね。一応ネタバラシすると——」


 あぁあぁあぁああぁぁぁあああぁぁぁあ。あぁあぁあぁああぁぁぁあああぁぁぁああぁあぁあぁああぁぁぁあああぁぁぁああああああ


 あぁあぁあぁああぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 ——あ



 ◇◇◇◇◇


【メールが届きました】

【あーらら。お化けが自分で死を選んじゃった!弱い子はお仕置きされるから、仕方ないか!】

【あと14人!早くしないとある意味終わっちゃうよ!】

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