2-17【それ以上言えばミーがユーを撃ち殺しマース】

 ☆ギャンブラー


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 温泉宿からどこまできたか?ふと後ろを振り向くと、ギャンブラーと同じように息切れしているアーチャーと平然としているガンナー、そしてファイターがいた。


「ここはどこでショー?森の中ではあると思いますケドー」

「はぁ……はぁ……地図見たらわかるんじゃないの?」

「……温泉から西南に向かって走った。つまりここは普通に森の中だとは思う……が、この匂い。わかるか?」


 そう言われて鼻をスンスンと動かす。森の中にある木の香りもするが、もう一つ違う匂いが混ざっていた。


「これは……潮の香り……?」

「つまり、浜辺か、港……っておかしいだろ……!!西南に向かって走ったんだ……!どこか行き止まりにぶつかるはず……!!」

「ワープ。か?一定の場所まで行くとどこか違うところに飛ぶ……そうすれば納得できる」


 とりあえず歩くか。と、ファイターの提案に全員が頷く。そして皆がにこやかに話し始めるのを聞きながら、ギャンブラーは考えた。


 ワープの仮説はおそらくあっている。確かに行き止まりがあればここから脱出する算段をつけられてしまうだろう。それの対策だ。


 ……そう、つまりここから出ることはほぼ不可能なのだ。絶海の孤島や。何かの施設ではない。に、彼女たちはいる。


 おそらく全員そのことに気づいている。気づいているからこそ、他の話題で意識を逸らそうとしているのだ。そして、そんな時だった。


 ピロリン


 スマホの通知音がなる。皆が会話を止めてメールを確認すると、そこに書いてあったのは……ソルジャーが死亡し、彼女を殺したのは……


「ジョーカー……生きて、いたのね……」


 アーチャーがポツリと呟く。別に以外ではない。ギャンブラーだって、あの程度でジョーカーが死ぬとは思ってない。


 だが、トドメをさすことができなかったから、新たなる犠牲者を産んでしまったのだ。そのことは、重くギャンブラーにのしかかる。


(くそ……あの時私が逃げることを提案せずトドメを刺せば……!!)


 後悔は遅すぎた。もう後には戻ることもできず、進むことしかできない。ギャンブラーは目に涙をためて、拳を強く握る。


「……切り替えていきまショー。ソルジャーさんは運がなかったんデース」

「そんな言い方……っ!!」


 ガンナーのあまりにも無神経な言葉にギャンブラーはかみつく。確かに、運がなかったとしか言えない。しかし、そんな言葉で本当に片付けていいのか?


 そんなわけがない。みんな生きてるんだ。その命を一方的に奪っていい存在なんてこの世にはいない。運がいい悪いの問題ではないのだ。


「私達がジョーカーを倒せば……ソルジャーを救えた……!もうこれ以上死人は出なかった……!!」

「そうですネー。でも、ミーたちは恐らくあのジョーカーにはかてまセーン。全員死ぬのが関の山デース」

「それでも……っ!!」

「いいですカー?ギャンブラー」


 ガンナーはそういってギャンブラーの肩を掴む。突然のことでギャンブラーは彼女の手を振りほどこうとするが、それは叶わなかった。


 彼女と目を合わせる。彼女は強い視線を、ギャンブラーに向けていた。


「ギャンブラー。ユーのその心。それは時に弱さにもなりマース。人の死を悼むのは結構デース。ですが、それを背負いこみ過ぎるのはやめまショウ」

「…………私はどうすればいい……!私はこの中で一番弱い……!!戦う力もない……頭は回るかもしれん……が……未だにジョーカーの倒し方がわからん……っ!!こんな役立たず……そ、そうだ……私がソルジャーの代わりに死ねば——」

「ストップ」


 カツン。と、何かがギャンブラーの頭に当たった。冷たい感触を感じ、視線だけでそれを見ると、それはガンナーの銃だった。


「それ以上言えばミーがユーを撃ち殺しマース」

「なんで……!!」

「……ミーはユーのこの世界でも正しさを見失わない姿勢に惚れましター。ミーは正しさを失い、ユーを襲った。そんなユーが自分を殺すなんて一番正しさを失うことをするなら……完全に失う前に、ミーが殺してあげマース」

「私は……正しくなんて……ない……っ!!」

「ユーがそう思ってもミーはそう思いまセーン」


 しばし流れる気まずい沈黙。ガンナーが言いたいことはわかる。しかし、それでもギャンブラーは自分の無力さを呪う。


「コホン……もういいかしら?」


 アーチャーが態とらしく咳をしてこちらに声をかける。彼女は気まずい空気をなんとかしようと思ったのか、二人の手を握って歩き出した。


「とにかく前進あるのみよ!難しいことは後で考えましょ?」

「で、でも……!」

「ギャンブラー。あんたは自分のことを弱いって思ってるかもだけど……一つ、教えてあげる。少なくとも私たちはあんたのお陰で助かったのよ……そこら辺、忘れないでね」


 アーチャーは照れ臭そうにそういった。彼女は目を合わせてはくれなかったが、ガンナーはじっとギャンブラーの方を見ていた。


「……ユーは強いデース。それも忘れないでくだサーイ」


 その言葉を最後にガンナーは口を閉ざした。ギャンブラーも、これ以上口を開けることはできなかった。


 しばらく進み、彼女たちは森を抜ける。そこは浜辺であり、どこか休めるところを探そうと、アーチャーが提案した。


 その時だ。浜辺の波打ち際に一人の少女が体操座りで座り込んでいた。誰だろうと思うと同時に、ファイターは彼女に近づいていく。


 そして、その少女はファイターに気づいた。しばらくの間。二人の間には潮風のみが吹いていた。


「お前確かセイバーと一緒にいた……」

「……ファイター……ファイター……ファイター!!」


 少女は突然立ち上がる。ガンナーは銃を。アーチャーは弓を構え臨戦態勢を取るが、それよりも早く、彼女はファイターに飛びついた。


 襲われたと思ったが、ファイターは押し倒されるだけで何も起きず。その後すぐに押し倒した少女の泣き声が浜辺に響き渡る。


「ウチ、ウチ〜!!あかんことしてしもうた〜!!セ、セイバーはんと喧嘩してしまたし、危うく一人殺すところやった〜!!」

「……何?」

「うぇ〜ん!!うわぁ〜ん!!」


 ……とにかく落ち着くまで待とうという結論に至ったギャンブラー達。ブースターという魔法少女の声はその後もずっと響き続けていたのだった。

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