2-16【私が叩き壊して差し上げます】
☆クリエイター
「う、うぅん……」
痛む頭を抑えつつ、クリエイターは立ち上がる。キョロキョロと周りを見ると、いつの間にか小さな洞窟の中に潜り込んでいたようだ。
確か。と、頭を回らせる。確かジョーカーにとどめを刺そうとして失敗し、ソルジャーに逃げろと言われそれから……
その瞬間、今こんなことしてる場合ではないことに気づく。立ち上がろうとしたが、足が滑りうまくいかない。
「おはようございます」
突如声が聞こえてきて、慌ててスパナを構える。そこにいたのは修道服を着た少女で、彼女は慈愛を込めた表情を浮かべていた。
「お久しぶりです。私、キャスターですわ。クリエイター様、ですわよね?」
「もしかして……助けてくれたんっスか?……ありがとうございます」
「ふふっ……いいんですよ。困ったときはお互い様ですので。しかし……」
そう言って彼女は顔をそらす。何かモン内でもあるのかと聞こうとした時、キャスターはスマホの画面をクリエイターにみせる。
そこに届いていたのは1通のメール。しかし、それを見て、クリエイターは全てを理解した。ガラリと世界が揺れてその場から動けなくなる。
「もしや……よければ。私に話してくれませんか?貴女様をお救いしたいのです」
その言葉を聞いて、クリエイターは自分でも驚くほど内心で喜んでいた。そして、ゆっくりと口をあけたのだった。
◇◇◇◇◇
☆キャスター
喜びが、まるで洪水のやうに溢れ出しそうであった。キャスターはクリエイターの話を聞いて大げさに頷く。
どうやらソルジャーという魔法少女が死んでしまい、それをクリエイターはどう受け止めようか悩んでいるようだ。
(何と救い甲斐があるのでしょう!!)
キャスターはクリエイターの手を優しく握る。そして、スキルを発動し、彼女と視線を合わせた。
「えぇ、ええ。とてもお辛いでしょうね……お察しします」
そう言って涙で目を濡らす。勘違いしてはならない。キャスターは本心から悲しんでいるのだ。これは、演技でも何でもない。
ここで目を拭う。少し濡れた手でクリエイターの手を優しくつつむ。お互いの体温が高くなり、クリエイターは顔を真っ赤にして逸らそうとした。
それはいけない。キャスターは待ってと一言声をかける。その言葉で、クリエイターはとまり、こちらを見てくれた。
「……ソルジャー様の無念を晴らしたくはありませんか?」
「無念……」
「えぇ!そうですわ!ソルジャー様を殺した存在……そう、ジョーカー。きっと彼女を殺すことで、ソルジャー様も喜んでくれますわ」
「……」
あともう一押しだ。そう思った時、クリエイターは小さく「ありがとう」とつぶやいた。そして、彼女はゆっくり立ち上がる。
思ったより簡単に救えることができた。そう思った、その時。クリエイターはこちらを見てにこりと笑う。そして、口を開けた。
「自分は今は敵討ちなんてしないっス。ソルジャーさんが教えてくれたっスから……覚悟を背負うこと。その意義。その覚悟を背負った時……その時が勝負っス」
「な、なな……」
「それじゃ!また会える時までっス!!」
そう言ってクリエイターは駆け出していった。なぜだ?なぜ救えない。なぜ助けることができない。
違う。こんなはずない。ありえない……だって私は●●だ。私の言うことは全ての人類が耳を傾けてくれる。
ならばあの魔法少女は何なのだ?助けがいらない訳はない。彼女は現に、助けを求めてこちらを見ていたのだから。
では何故?何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故——
——そうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうか!!
「つまりクリエイターは敵なのですね……ふ、ふふふ……神に逆らうその精神……私が叩き壊して差し上げます……」
キャスターは笑い出す。いま、彼女がやろうとしていた当初の純粋な正義は少しずつ消えていき、もうねじ曲がった正義だけになっていたのだった。
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