2-15【貴様は、覚悟の前に敗れ去る】

 ☆ソルジャー


 ソルジャーの武器は二種類ある。剣と、銃。一人で近接から遠距離まで立ち回れるというのは、なかなかに有利なものだ。


 しかし、残念……いや、当たり前なのかもしれないが、この武器の威力はかなり控えめだ。本職のセイバーとガンナーには遠く及ばない。


 だが、そんな彼女も本職に追いつく方法がある。それが、スキルだ。自分に敵対する者がいないほど戦闘力が上がる。これさえあれば追いつける。


 が、逆に言えば——


「ガッ——!?」

「つまらない。本当に、つまらないよ……」


 ジョーカーはため息を漏らす。そう、ソルジャーは誰かとチームを組んでこそ、真価を発揮する。一対一ではあまりも非力だ。


 距離をとり、銃を構える。照準をあわせ、一気に連射。その攻撃はすべて、ジョーカーのトランプに弾かれる。


「鋼か何かでできてるのか貴様のトランプは!」

「愛と勇気でできてるのさ」

「チィ!」


 ソルジャーは距離を詰めることはしない。剣技に自信はあるが、ジョーカーはそれすら乗り越える強さがある。


 あくまでクリエイターが逃げ切るまでの時間を稼ぐことだ。隙を見つけそこから逃げる。それしかない。


「つまらない……なんで本気でこないの?」

「……貴様相手に正面からぶつかるのはそれは自殺行為というものだ。わからんのか」

「はぁ……まぁいいや。うん」


 何を言っている。と、口を開けた瞬間、ジョーカーから放たれる殺気。それに気を取られた瞬間だった。


 ジョーカーがソルジャーの目の前に立っていた。何が起こったかを理解するよりも早く、ジョーカーのトランプがソルジャーの片腕を斬り落とす。


 ソルジャーはあくまで冷静に剣を構えて振り上げる。それをジョーカーは体を仰け反らせて、軽く避けそのまま曲芸師のように体をねじりながら、ソルジャーを蹴り飛ばす。


 体を木に打ち付けて口から血を吐く。ここでもう終わりなのかと、ソルジャーはため息を吐く。


 死ぬのは怖いか。と聞かれたら彼女は怖くないと答える。伊達に何十年も軍人をやってるわけではない。一番恐れてるのは——


「さて、クリエイターちゃんを追いかけに行こうかなぁ」

「……なに?」

「だってさぁ。ソルジャーちゃん、死んでも死ななくてもいいって感じだから、全然つまらないもん……だったら、クリエイターちゃんを殺す方が……こう、盛り上がらない?」

「くっ……いかせんぞ……!」


 立ち上がろうとする。しかし、体にうまく力が入らない。立とうとしても、流れた血で滑ってしまう。


「じゃあね。バーイ♡」


 逃げるな。声を荒げる。しかし、声は届かない。伸ばした手は虚空を掴み、そのまま崩れ落ちていく。


(……我はここで終わりだというのか……こんななにもないところで、なにも残さず散っていく……)

【——そんなんでええんか?】


 誰かの声が聞こえた。その声は、どこか聞き覚えがあり、もう一度聞きたかった。そんな声だ。


 後ろを振り向く。そこには、誰もいない。けれど、体の中が、熱く盛り上がっていく。そんな気がした。いや、これは気のせいではない。


「——まて」

「ん〜?」


 ソルジャーは立ち上がる。剣を構えて、ジョーカーを睨みつける。その顔を見て、彼女は小さく口笛を鳴らし、トランプを取り出した。


「どうしたの突然やる気だして、さ」

「……やる気。違うな……我の後ろを見ろ」

「はぁ?なにもいないじゃん。とうとう頭、やられちゃった?」

「ふん。見えんのか……我はな、我の後ろに散っていったものたちの覚悟を背負っている。ここに立っているのは、我ではない。がここに立っている!」

「なるほど……一個上のステージに立てたんだね。ソルジャーちゃん。うーん……勿体無いけど……」

「共に行こう。我が同胞たちよ!」

「タイミングが悪すぎるね。だってもう……抑えられないもの!!」


 ソルジャーは駆け出す。剣を構え、まっすぐとジョーカーの胴体に向かって突き刺そうとする。それをジョーカーは、体をずらして避けた。


 だが、そうなることはソルジャーは分かっている。無理やり体の勢いを止めて、突き刺した剣を横になぎ払った。


 ザクリと音がして、ジョーカーの脇腹に斬り傷が入った。血が飛び散り、それはソルジャーの顔に張り付く。


 ジョーカーはペストマスクの向こうでニヤリと笑ったような気がした。まるでこの状況を楽しんでるようだ。


 彼女はおそらく……人を殺すことが好きなのだろう。先ほど何人かの魔法少女を取り逃がしたのだから、その鬱憤がたまっている。


 だが、それでいい。こちらにだけ気をつけてくれるほうが、何かと都合がいいというものだ。


「ハァァァ!!」


 剣を投げ飛ばす。まっすぐとジョーカーの顔に進むそれは、当たるとは思っていない。避けるために、そこに視線を集中させるだろう。


 それこそがチャンス。ソルジャーは銃を取り出し彼女の胴体に射線を合わせる。殺せるかはわからない。いや、殺さないといけない。


 ダァン!


 音が聞こえた。これは銃声……いや、違う。ソルジャーの銃はサイレンサーが付いている。あとはこんなに大きくなるわけがない。


 それどころか、自分の手に違和感を感じる。そこにあるのは、真っ赤に焼けただれている自分の手と、爆発した銃。そして——


「トランプ……!」

「やるねぇ、ソルジャーちゃん。でもごめんね……ジョーカーに殺させてね?」


 ソルジャーは距離を取ろうとする。が、それより早くジョーカーがソルジャーの足をトランプで斬り落とす。


 両手と両足を失ったソルジャー。動くことも諦めて、その場から、ジョーカーを見つめる。瞳の奥まで、彼女は笑っていた。


「遺言なら聞いてあげる。ジョーカーに傷をつけたご褒美としてね」

「……貴様は、覚悟の前に敗れ去る。我等の覚悟は……ここでは終わらん。まだ、受け継がれる」

「あの子がそれを受け継がれるの?」

「我にはわからん。あいつは童だ。しかし童は……成長する。それだけだ」

「そっか。それじゃ、ね。久しぶりに楽しかったよソルジャーちゃん」


 首にトランプが当たる。ソルジャーはその間もジョーカーから視線をそらすことはしなかった。


(すまんなバーグラーよ。だが、我等の覚悟はきっとあの創作者クリエイターが引き継ぐ……我ながら、自分勝手よな。あぁそうだ——結局、あの不思議なおもちゃが何か聞けなかなったか……まぁいい。ゆっくり、教えてもらおう、か)


 そして、ソルジャーの意識はそこで途絶えた。彼女はその生涯を終える寸前でも、終わった後でもまっすぐと視線をそらすことはなかった。



◇◇◇◇◇



【メールが届きました】

【偏屈軍人の首が飛んじゃった!やったのは我等のジョーカー様だぁ!痺れる憧れる!!】

【あと15人だって!もっとハイペースで行こうぜ!】


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