2-12【俺は、強者と戦いたい】

 ☆ファイター


「う、うぅん……」


 少しだけうるさくて、ファイターはゆっくりと目をさます。確か、アーチャーとともに温泉に向かって歩き、途中でとうとう力尽きて……


 ふと気づくとアーチャーがこちらを見てにこにこと笑っていた。そうか、運んできてくれたのかと理解したのと同時に、ファイターは言葉をこぼす。


「ありがとうアーチャーちゃん……」


 そこまで言い切った後、アーチャーは大きな咳をした。よく見ると、近くに他の魔法少女がいて、アーチャーと同じようにこちらを見ていた。


「ファイターはそう言うキャラなのか……?」

「な……ち、ちがう!今のはその……寝ぼけて……」

「ワァオ!見た目とは違ってなかなか可愛いんですネー!」


 今何を言っても意味がない気がする。ファイターは確かに、どちらかといえば内気な少女。


 ではなぜ強い人間と戦いたがるのか。その理由は簡単。彼女の憧れの存在……彼女の兄がそれに関与している。


 強い兄に憧れ、その強い兄のようになるために強者と戦う。試合の中だと、自分の中の内気なものが消えていくのも、それを手伝った。


「……助けてくれたことには礼を言う。感謝を」

「さっきみたいな感じでも構いませんヨーむごぉ!?」

「まて!……察してやれ……」


 そう言われるとさらに恥ずかしくなる。穴があったら入りたいというのはおそらく人生でこれで86回目くらいだ。


 まぁ、まだ挽回の余地はあるだろう。体を軽く動かす。うん。かなり傷は癒えているから、動くのには問題はないだろう。


「わた……じゃない。俺は、強者と戦いたい。よければどちらか俺と……」


 その時だ。体全身に悪寒が走り出す。これは、寒さからでもましてやからくるものでもない。


 あっ。死ぬ。


 そんな二文をなんもためらいもなく受け入れている自分に。そして、温泉の扉の前に立っている、ナニカに対してだ。


「やっほ、アーチャーちゃんたち!ジョーカー様がやってきたよー!」


 そこにはペストマスクをつけた死神が立っていた。



 ◇◇◇◇◇



 ☆ギャンブラー


「あれが、ジョーカー……!?」


 そこにいたのは人間には見えない存在。例えるなら、狂気に包まれた人形。そんなものを前にして、正気を保てれる自分に驚く。


 ガンナーはいつの間にかギャンブラーの前に立ち銃を構えている。遠距離で戦うべきなのに、自分を守ろうとしているのか。なんだか情けない。


「んー?確か強い人と戦いんだっけ。じゃ、ジョーカーはどうかな?」

「……成る程。いい話だッ!!」


 ファイターが駆け出す。その速さは、少なくともギャンブラーには目視できなかった。ガンナーはそうでもないようだが。


 そしてファイターはジョーカーの仮面に向かって拳を突き出した。風圧がこちらまで飛んできて体を震え上がらせる。


「ガァッ!?」


 風圧と共に何かが飛んできた。それは、先ほど向かっていったファイターだった。ジョーカーに向かっていったはずな彼女が、なぜ?


「生きてるー?生きてるよねー。死んだらつまらないもん」


 もしかして、あの状態でファイターを弾いたとでもいうのか?いや、そうに決まっている。それが彼女のスキルなのか。


 つまり反射?そんなものを持ってる相手に勝てるのか……いや、まて。この世界では決めつけはしてはいけないだろう。


 ここは情報を手に入れるしかない。そう決心した時、自分の世界が揺れる。これはジョーカーのせいであることに、彼女は気付きたくなかった。


「ジョーカー……お前、強いんだな」

「あっはっはっは!もちろん、ジョーカーは強いんだよー?」

「そう、お前は強い……ならば、こちらにハンデをつけてもいいんじゃないか……!?」

「……ハンデぇ?なんでぇ?」

「理由は簡単だ……すぐに殺したらお前も面白くないだろう……?スキル効果くらい、教えてもらいたい……」

「ははぁ。成る程ね……いいよ。ギャンブラーちゃんは結構強いんだね。こっちから見てもガタガタブルブルしてる姿に敬意を払って教えてあげる。とは、いっても……」


 光が見えた。敵のスキルさえ知ることができたら、対処法も多く思いつく。ギャンブラーのスキルだって、サイコロを壊したりしてしまえばそれで終わりだ。


 彼女は少し話してわかる。恐らく嘘をつくことはない。それが彼女の強さの秘訣でもあるのだろうが、助かった。


 ギャンブラーは力では負ける。だからこそ、知力で戦わなければ。そのための光。掴んでものにする——!!


「ジョーカーにスキルなんてないよ。そんなものなくても、ジョーカーは強いもん」

「……は?」


 光が音を立てずにゆっくりと消えていく。

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