2-10【あとでキミは爆発四散するが】
☆ヒーロー
寝苦しい。寝る前は涼しく気持ちよく感じたのに、今ではどこか息苦しくも感じる。少しだけイライラしながら彼女は起き上がる。
あくびをしながら目をこする。ゲームの中なのに寝ることができるなんてと思いながら、とりあえずベッドから降りて、歩こうとする。
コツン。と、突然何かにぶつかった。まるで見えない壁に包まれてるようだと感じ、ヒーローは焦りだす。もしかして、敵がいるのか?
「んっ……ようやくお目覚めか、しかしタイミングを弁えんかクソゴミ。ようやく眠りが深くなってきたというのに……」
「だ、誰!?」
突然聞こえてきた声の方を向くと、とても顔立ちの整った女性がこちらを見て笑っていた。
もしや、この見えない壁を出したのはこの人だというのだろうか。だとしたら、かなりきつい状況になってるはず。抜け出すタイミングをつかまなければ。
「さて、あとでキミは爆発四散するが……とりあえず、なぜバーグラーを殺したのか、この僕が聞いてやろう」
なんでこいつはこんなに偉そうなのだ。その思いを口にしようとしたが、ゴクリと生唾とともにそれを飲み込む。
……彼女が言ってることが本当なら、
「だってこれ、ゲームでしょ?ゲームなら、倒さないと……」
「ほほぅ。これを、ゲームというか。なるほど。ここに寝転がっている猫娘よりクソだな。三下……いや、五下か」
「なにそれ……」
「さて、言いたいことはそれだけか?」
女性が笑い、手を突き出す。その瞬間、自分に走る悪寒。このままでは負けると想像は容易だ。
ヒーローは抜け出すために壁を殴る。鈍い音がするだけで、その壁が壊れる様子はない。しかし、ここで諦めたと言えない。何故ならば……
「どうした?死んでもゲームオーバーになるだけだろ?ならばここで諦めろ」
「い、いやだ!イヤダイヤダイヤダイヤダ!!」
「ははっ……どこかで気づいているのだろう?ここはゲームじゃない。現実だと」
女性の言葉を聞いて、ヒーローの動きはピクリと止まる。ゲームの中なのに眠ることができるし、何よりあのグロテクスでリアリティのあるものは、現実に思えてしまう。
しかし。そんなこと認めてたまるか。認めてはいけない。認めたら、ヒーローは人を殺したことになってしまう。そんなの嫌だ。嫌だ。だからここは現実じゃないんだ。そうだ。ここは仮想世界。死ねば元の世界に戻るはず。
「汗をかいてるし体は震えている……もう気付け。キミはここで人を殺したんだ」
「っ……ち、違う!!違う違う違う!!ここはゲームなんだ!だ、だから僕は人なんて殺してない!そんな事実認めない!!」
「救えない馬鹿だ……キミはなんだか、一人称的な意味でキャラ被りを感じる。間引くのも手だな。元から見逃すつもりはないが……」
「ヒィッ!?い、いやだ!やめてお願い殺さないでなんでもするからぁ!!」
「ふん……見苦しい。そら、自分で確かめてみろ。ここが、現実か、それともゲームか」
死にたくない。ここは現実じゃないはずなのに、そんな想いが頭の中でぐるぐると回り始める。助けてくれ。叫ぶ脳と、死ぬわけがないと、楽観する自分。
どうすればいいのだ。なにが正しいのかなにが間違ってないのか、そんなことわからなくなる。もう抜け出せない。何もかもから。
「うわぁぁぁああぁぁああぁぁああっ!!!」
脳から溢れる想いが叫び声をあげる。なにをすればいいかわからない。だけど、今できることは一つだけあった。
ヒーローはベルトに手を当てる。すると自分の体が発光し始めて、やがて体から恐怖が消えていく。
この力があれば。ここから抜け出せれる。そして、優勝できる。そうだ、そうだそうだそうだ!
ここが現実でもゲームでも関係ない。勝てば、いいのだ。
◇◇◇◇◇
☆ガードナー
「あいつ……力だけはあるのか……」
壊れた結界を見ながら、ガードナーはため息をつく。逃げられるとは、思ってもいなかった。かなりプライドが傷ついた。
結界を壊されたのはこれで二度目。もしかしたらそこまで硬くないのかもしれないな、と。彼女にしては珍しく自分の力を疑う。
(……まぁ、なんでもいい。なにがあろうとも、僕は天才だということには変わらないからな)
ヒーローのことは後々考える。今するべきは少しだけあるイライラを近くで寝転んでいるブレイカーにぶつけることだ。
鼻をつまむ。気持ちよさそうに寝ていた彼女がだんだんと苦しさで顔を歪めて行き、そして慌てて起き上がる。
「ようやく起きたか猫女。堕落した生活を送るとクソゴミカスになるぞ」
「いや……起こすならもっと優しく……というか、ヒーローは……?」
「逃げた。結界を壊したが……これはおそらくキミとは違うスキル効果だ」
「なるほど……ふわぁ……これからどうするんですか?」
「ふん……しばらくここで休養だ。天才の僕でも、疲れには勝てん」
本音をいうと今すぐにでもヒーローを追いかけたかったが……勝てるかわからない試合を挑むほど、ガードナーは馬鹿ではない。というか天才だ。
せっかく休めるのだから、今のうちに休むべき。そう結論付けたガードナーは自分の周りに……たまたま近くにいたブレイカーも結界で囲む。
「もう一度寝るぞ。いざという時に寝不足で倒れたとなったら、話にならんからな」
さっさと眠る。ブレイカーが何かニャーニャー言ってるが、無視。今は、少し眠いのだから。
天才だって人間だ。と、いうわけである。
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