2-8【殺さなあかんのや……それが正しいことや】
☆ランサー
「パペッター様大丈夫ですか!?」
吹き飛ばされた方に走りながらランサーは声をかける。パペッターからの返事はないので、早く安否を確かめたい。しかし、不謹慎だがメールは届いてないためまだ大丈夫だろうが……
吹き飛ばされたところには、とても暗い顔をした魔法少女。ブースターがそこにいた。彼女の顔を見て、ランサーは敵と一瞬で判断する。
槍を構えて突き刺そうとする。が、ブースターはすぐに空を飛び、そのまま後ろに回り込む。
蹴りが当たり、前に倒れる。その勢いでランサーはパペッターを守るように立つ。ちらりと彼女を見ると、きちんと胸は上下していて息はしていることがわかった。
ホッとすると同時に、守るときめたのに、彼女にこんな傷を負わせてしまった自分に対して叱責を送る。
(しっかりしなさい!わたくしは誇り高き王女。クリスティア・アルミシィ……早くこの場を切り抜ける方法を見つけませんと……!)
「うちが自分で殺す……殺さなあかんのや……それが正しいことや」
(……まるで……何か説得された故にこの行動をしているようですわ。ではなぜ?殺しあう方に誘導するのでしょうか……)
ブースターの行動は理解はできない。が、しかし。もし想像通りなら、もともと誰かを殺そうなんて考えないタイプのはずだ。
つまり、今病院の入り口でこちらを見ているキャスターが裏で操っているのか?だが、そんなことして何になるというのだ。
ランサーは人を見る目はある。と、勝手に思っている。あの場で危険だと思ったのは数人だが、その中にブースターとキャスターは入ってなかった。
(観察眼が落ちたかも……パペッター様も、よくわかりませんし……いや、わたくしは王女。こんなところで止まるわけにはいけません。それに、これを突破する方法はありますわ)
ランサーは槍を構える。息を吐き、心を落ち着かせブースターの行動を見極めようと考える。
ブースターは縦横無尽に飛び回る。が、これはおそらくスキルによるものだ。つまり、いつかきめにいかなければ得物があるランサーの方が有利だ。
だからいつかのタイミングで全力の一撃を必ずきめに来るはずだ。それを受け止める。それがランサーの考えた作戦だ。作戦といえるほどじゃないかもしれないが。
が。突然ブースターが移動をやめる。ランサーから約5メートルほど離れたところに浮かび、こちらをじっと見つめていた。
何をしようとしているのだ。そう思った瞬間、ブースターはまっすぐ突っ込んで来る。力を溜めていたのか?だが、そんなこと考える余裕はない。
ランサーはブースターを受け止めようと手を伸ばす。タイミングはバッチリで、このままいけば多少ダメージはあるだろうが抑え込むことは可能。
「……っ!!」
瞬間。ブースターは突然動きをずらした。その結果ランサーの手は空を掴み、それを彼女は握りしめた。何が起こったのか考えるよりも先に、ブースターは遥か上空に飛ぶ。
まるで、ランサーが手を伸ばすことをわかっていたかのような行動に、ランサーは動揺を隠せない。そして、自分が今どれくらいの高さにいるのかを周りの景色で確かめた後。
「……さよならや」
ブースターの言葉が聞こえた。そしてそのまま彼女とブースターの距離は離れていき、代わりに地面との距離が近づいていく。
(そんな、ダメ——ここで止まっちゃ、ダメ——!)
ランサーは手にある槍に映る自分を見つめながら、目を見開いたのだった。
◇◇◇◇◇
☆パペッター
「……う、うぅん……?」
体が痛い。何が起きたかを思い出そうとし、すぐにわかる。ブースターに襲われてそれっきりだ。
「って、ランサーさん!?ランサーさんは!!」
起き上がり、先ほどまで自分を守ってくれた少女の名前を呼ぶ。どこかにいるはずだと。そう願いながら。
ドンっ
その時だ。パペッターの目の前に何かが落ちてきた。びちゃりとあたりに飛び散る赤い液体。そして、彼女の頭に何かがぶつかった。
それは先ほどまで見ていた、頼っていた——すがっていた。あの少女の腕だ。それを震える手で握りしめて、何か落ちたところに視線を向ける。
「うふ、うふふふ!ようやく救われましたね、ブースター様!!新しい道を、神は祝福していますよ!」
キャスターが何か言っている。しかし、その言葉に気を使う余裕なんてない。パペッターは膝から崩れ落ちてただただ泣いた。
そんな泣き声に合わせて、メールが1通届いたのだった。
◇◇◇◇◇
【メールが届きました】
【おやかたー!空から王女様が!!落ちてきたのはジェット機からかなー?】
【あと15人だって!みんな!まだまだたくさんいるからたくさんころし×>|÷3・3=・
「あらあ、ら……失礼です、わね」
◇◇◇◇◇
☆ランサー
全身の骨が折れている。確実に。槍で体を支えるのが、精一杯だ。後ろから聞こえるパペッターの喜びの声をきき、ようやく安心する。
「……なぜ生きてるのです?」
「王女だからですわ。それ以上ありまして?」
……答えは単純だ。スキルを使い、自分で自分に命令をした。死ぬな、生きろ。と。こう、うまくいくとは思わなかったが、はっきり言ってもう倒れてしまいそうだ。
病院に早く行きたい。しかし、体が言うことを聞かない。早く動かないと、ブースターにまた襲われてしまう。
「どいていただけませんこと……?わたくし、病院に用がありますので」
「それはできません。貴方はブースター様を救うための犠牲になってもらう必要がありますので」
「話し合いはできないようですわね……」
せっかく生きながらえたのに、もう終わりか。せめて、パペッターの安全を確保しなければならないというのに。
「どちらにせよもう虫の息。ブースター様が降りてきたらこれはもう終わり——」
その時、病院の方から足音が聞こえてきた。体に包帯を巻いてはいるが、彼女が腰にさしている剣は今はただとても頼もしく見える。
何が起こっているのか。それを知りたいのか、彼女は今この場にいる魔法少女の顔を見比べる。そして、ため息をつき、鞘から剣を引き抜きながら口を開けた。
「……で、誰を斬ればこの騒動は止まる」
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