2-7【神様が祝ってくれてるのですよ】

 ☆パペッター


「本当に病院方向でいいんですかー?」

「あら、パペッター様がこちらに行きたいと申したではありませんこと?」

「そうですけど……」


 歩きながら、パペッターはランサーに問う。確かにこちらに行きたいと宣言したのはパペッターだが、正直ちがうと言われると思っていた。


 病院には確かに怪我人など、そういう人が集まる可能性が高い。だが、それはその怪我人を狙う。つまり優勝を狙う人物も多くあつまる可能性もあるということだ。


 提案した時、それに気づいていたパペッターはランサーに言葉を投げるが、彼女は病院に行く姿勢を崩さない。確かに彼女は——


「……何かきますわ」

「えっ、きゃっ!?」


 パペッターの思考を切り裂いたランサーの言葉とともに現れたのは黒い怪物。確かメールには、怪物が出ることは書かれていた。


 突然の出現には驚き尻餅をつくが、なぜかどこかでみたことあるような気がする。まぁ、気のせいだろうけど。


 そんな疑問を抱く彼女とは違い、ランサーは手にした槍をなんのためらいもなくまっすぐ突きさす。一瞬で、怪物の胴体には穴があき、そのまま消滅していった。


 ——そう。彼女は強い。弱い存在のパペッターを守る事が出来るくらいに。そんな彼女だから、ある程度の敵ならなんとかなる。と、思っているのだろう。


 パペッターも、彼女とともにいれば負けることはない。と、思いたい。しかしそれは当たり前だ。誰だって、私は死なないと心の何処かで思うものだ。


「もしかして、わたくしじゃ不満ですか?」

「い、いえっ!そんなわけないでしゅよ!」


 噛んだ。が、そんなわけがないというのは本心だ。。彼女で不満なら、おそらく霊長類最強のあの人に守ってもらうしかなくなる。


「大丈夫です。わたくしがこの身を犠牲にしてでも、パペッター様をお守りしますわ」


 彼女はまさしく王女なのだろう。貫禄、そして、言葉の重み。全てが一流だ。正直、私ごときが彼女とともに歩くのはおこがましく思え、早く消えてしまいたいと考えてしまう。


 過去の経歴が何一つ分からないような私を守るなんて、正気の沙汰ではない。が、守ってくれるならそれに答えなければ。


「……おや、入り口に人がいますよ」

「本当だ!少し声をかけてみますっ。おーい!」

「お待ちになって!様子がお——」


 ランサーの制止を無視して、パペッターは声を出す。確かに、言われた通りに病院の前にいる二人の少女の様子はおかしい。


 けれど、二人は確かキャスターとブースター。二人はこのゲームに乗ってるようには見えなかった。だから、大丈夫。


 それに、少しくらいは活躍しないとバチが当たるというものだ。


「あぁ!みてくださいブースター様!他の参加者がきました。きっと、神様が祝ってくれてるのですよ」

「そうやな……」


 ブースターと呼ばれた少女がこちらを睨む。その瞬間、風圧がパペッターを襲った。いや、違う。襲ってきたのは、ブースター本人だ。


 彼女が飛んできて、そのままパペッターを殴り飛ばす。勢いをつけた一撃により、パペッターは口から血を吐いた。


「な、んで……」


 薄れて行く意識の中。彼女、ブースターは哀れみを持った目でこちらをみている。それが、最後だった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆キャスター


 少し時間は巻き戻る。


 ブースターはキャスターに全てを話した。とても、辛そうな顔をしていた。内容は本当に私は誰も殺したくないと思っているのか?セイバーを利用しようとしているのか?ということ。


 なんと可哀想だろう!この悩みから救えるのは、私だけだ。キャスターは使命感に燃えて、そしてその悩みを解決しようと口を開ける。もちろん、スキル【神の囁き】を使い、心の中にまで言葉を投げることは忘れない。


「悩んでる時点で、ブースター様はセイバー様を利用しようとしています」

「そんな……」

「しかし、気にすることはございません。人間皆、欲はあるものです。なので、貴方様は、正しいことをなさろうとしています」

「ただ、しい……?」

「えぇ、えぇ!!そうです!もし気になるならセイバー様の力を使わずに、戦えばいいのですよ」

「……そうか。うちの力で、みんなを……」

「そうです。迷う必要は、ありません。きっと神があなた様の行動を祝福してくれます」


 ブースターはその言葉を聞いて、深く感動しているように見えて、キャスターは笑顔になる。やはり、人を救うのは心が気持ちいい。


 この世界には悩みを抱えてる人が多い。そして、その悩みを解決し、救う。それがキャスターの行動方針である。今回はとにかくブースターを救うときめた。


「あぁ!みてくださいブースター様!他の参加者がきました。きっと、神様が祝ってくれてるのですよ」

「そうやな……」


 その言葉とともに、近づいてくる魔法少女に向かって、一直線に飛んで行くブースター。彼女をみて、キャスターは自分の説得に万雷の拍手を送る。


 もしかしたら、あの二人も何か救いを求めてるのかもしれない。しかし、そんな事はどうでもいい。今大事なのは、ブースターを救うことだ。なに、神様だって許してくれる。なぜなら——


 一人を救うために他の犠牲がいるのは、当たり前なのだから——

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