2-2【むにゃ……もう食えんぞ……】

 ☆アーチャー


「う、うぅん……」


 アーチャーはゆっくりと起き上がる。瞬きを繰り返し、ここにいることが現実だと知り、絶望に襲われる。


 少しだけ期待していた。ここが現実ではなく夢だと。しかし、目が覚めた今、これは現実だということを嫌という程教えてくれる。


「あっ……」


 ふと隣を見ると、ファイターが近くに座り込んで目を瞑っていた。もしかしたら、私を守ってくれているのかも。そう思ったアーチャーは少しだけホッとする。


(この人……殺そうとしたのに、私のことを気にかけてくれるんだ……)

「……むにゃ……もう食えんぞ……」

「ふふっ……かわいい」


 先程まで心の中に渦巻いていた絶望や恐怖はすぐにどこかに吹き飛んだ。ファイターが起きるまで待とうかと思った時、ガサガサと草木をかき分ける音が聞こえてきた。


 誰だろう。アーチャーはその音が出る方を振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。


「楽しそうなことしてるね!ジョーカーも混ぜてよ!」

「あ、ああ……!!」


 そこにいたのは、ジョーカーだった。彼女の顔はペストマスクで見ることはできなかったが、声でおそらくニヤニヤと笑ってるように思える。


 彼女が一歩近づくごとに、一歩。無意識に下がってしまっている。逃げちゃいけないとわかっているのに。


「ころ、殺さない、で……!ジョーカー!」

「逃げていいよ!ジョーカー嘘つかない!」


 その言葉には……逃す代わりに誰かを殺せと、言われてるように思えてしまった。アーチャーは震えながら矢を握り、それとファイターを見比べる。


 息を吐く。冷や汗が、たらりと地面に落ちてジワリと広がる。そうだと、自分に言い聞かせた。私はもう一人殺したのだから、もう何人殺しても……!!


「……何をしているアーチャー」


 そんな時、ファイターが目を覚ましていて、こちらをじっと見つめていた。


 ◇◇◇◇◇


 ☆ファイター


「ころ、殺さない、で……!ジョーカー!」

(……誰かいるのか……?)


 アーチャーの騒ぎ声に、元から浅い眠りをしていたファイターがゆっくりと目をさます。薄めでアーチャーの方を見るが、彼女は一人で騒いでるように見える。


 しけし、彼女は確かにジョーカーと名前を呼んでいた。もしや、姿を消すのがジョーカーのスキルなのか?そしてファイターを殺すため、アーチャーと手を組んでいたのか。


 そう考えると、シンガーを殺したのはアーチャーとなる理由ははっきりする。二人が手を組んでいるから、だ。だが、それをするメリットは?


 アーチャーは運営側か?だが、それならなぜジョーカーに怯えるのだ。彼女の行動からして見るに、そこにジョーカーはおらず幻覚に怯えてるようにしか見えない。


 その時、アーチャーが矢を握りこちらを見はじめる。これ以上、無視を決め込むのは無理か。ファイターはまるで今起きた風を装い、口を開けた。


「……何をしているアーチャー」


 アーチャーに声をかける。彼女は、矢をつるりと手から落として、そのあと慌てたように矢を拾い上げる。


 そんな時間があったなら、組み伏せるには充分な時間がある。お手本のような手つきで、ファイターはアーチャーを押し倒し、押さえ込む。


「何をしている?」

「こ、殺さないと!ジョーカーに殺される……!!」


 成る程。つまり、ジョーカーの妄想に囚われてると考えて、間違いはないようだ。さて、どうするべきかと、考える。


 ……そもそも、深く彼女に関わる意味はあるのだろうか?こんなになっているなら、放置するのが一番か。


 だが、乗りかかった船というものがある。ジョーカーの恐怖に囚われるなら、やることといえば一つしかない。


「くるならこい。お前の恐怖……この俺で、上書きしてやろう!」

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