早朝
2-1【貴様には覚悟はあるのか】
☆クリエイター
ヒーローがいた城から逃げ出した二人は、そのまま森の中に転がり込んだ。肩で息をしながら、ヒーローがもう追いかけてこないことを確かめる。
「えっと、ソルジャーさん?……」
「ソルジャーでよい。で、
「いや……あの、逃げてよかったんスか?あんなに殺気に溢れてたのに……」
クリエイターがそう言うと、ソルジャーが何かを指差す。それはあの時突然見つけたバイブだった。そしてそれをよこせと、彼女は言っていた。
これが何か関係があるのかと思い、クリエイターはそれをソルジャーに手渡す。ソルジャーはそれを大切そうにしまい、口を開けた。
「これにはタスケテと描いてある。つまり、だ。奴は我に生きて欲しいと願ったのだ。貴様に、我を助けてと言った。そして貴様が来た。ならば我は、バーグラーが最後に思った願いを叶える希望となろう。それだけの話だ」
「そうっスか……強いんスね」
「強くなどない。我は……弱い」
ソルジャーは暗い顔をする。きっと彼女に取って、バーグラーはとても強い存在になっていたのだろう。
クリエイターも、失った。もしかして、似た者同士になるのかもしれない。そう考えたクリエイターは、わざとらしく大きな咳をしてこえをかける。
「よかったら、同盟組まないっスか?」
「……貴様には覚悟はあるのか」
「覚悟……?」
ソルジャーの言葉が理解できないクリエイターは首をかしげる。その姿を見たソルジャーはため息をつき、そして強い視線で睨みつけた。
「貴様から感じるのは、ただの童のオーラだ。非道にはなりきれない、なるべく数多く助けようとする妄言に取り憑かれているが、それは確実に届くことはない。ただの哀れな童よ」
「な……で、でも!」
「貴様はジョーカーのことを考えたのか」
「……っ」
「ジョーカーも生きている。が、この戦いから勝つ方法は、ジョーカーを殺すことのみ。この矛盾の構造に貴様は太刀打ちできるのか?覚悟はあるのか?」
クリエイターは言葉に詰まる。全ての人を助けれるなんて、元からそんなことはできるつもりはない。だから、助けれる範囲は助けようとしている。
だが、そうだ。ジョーカーだって生きている。当たり前だが、そうなのだ。死にたいと思うような人間は、いるわけがない。
シンガーをあんな目に合わせたのだって、ジョーカーは参加者を減らさないと殺されるから。正当防衛とも見て取れる。
「……まぁ、良い。すぐに覚悟を決めろとは言わん。が、いずれはその矛盾を壊すことを強要されると思え」
ソルジャーはそれだけ言い残し歩き出した。クリエイターは、追いかけていいのかわからずその場に立ち尽くす。
「……何をしている。我と共に行くのだろう。来い。仲間は多い方が、何かと役に立つ」
「わ、わかったっス」
クリエイターは走り出した。覚悟。それをいつ決めるべきなのだろうか。だが、早く決めるべきだと言うのは、言われなくてもわかっていた。
◇◇◇◇◇
☆ヒーロー
クリエイターたちが去って、残されたヒーローはため息をつく。まさか裏切りにあうとは。これは、ゲームだから仕方ないことかもだが。
ふと近くにあるバーグラーの死体を見る。それは、ゲームとは言えないほどリアルに見えたが、これはゲームなのだ。最近のゲームはすごいのだ。
「そうだよ……これはゲーム……じゃないと、ぼ、僕は……」
手が震える。バーグラーを殺した時の感覚は、自分の体にまとわりつく。変身が解けて、元の服装になったのに、なぜか気持ち悪い。
落ち着いて見ると、バーグラーの死体が視界に入るほど言いようがない吐き気に襲われる。ゲームだと、言うのに。
「……どっかで眠ったら、楽になるかな。ゲームで寝るってのも、変な話だけど」
ヒーローはフラフラとした足取りで城の中を歩き出す。どこかにあるであろう寝室を探すため、何かにすがるために。
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