1-18【二人でさ、ドン勝しようぜ!】

 ☆ソルジャー


 気づかなかった。そこに、敵が潜んでいることを。バーグラーが死んだのは、それに気づかなかった自分の責任だ。


 目の前にいる敵は特撮番組から出てきたような、まさにヒーローと言える格好をしていた。しかし、彼女の腕には、どろりと赤い物体が付着していた。


「うっわ。汚いなぁ……」


 特撮少女は手についた赤い物体を不快なものとして扱い、あたりにそれを飛ばす。びちゃりと、ソルジャーの右頬に張り付いて、それがたらりと地面に落ちる。


わたしは……ソルジャーだ。貴様はなんという」

「えっと……ヒーローだね。僕は、ヒーロー」

「そうか、ヒーロー。貴様はここで、死ね」


 もう何も考えない。ソルジャーは剣を構えて、駆け出す。ヒーローの右腕に向かって振り下ろすが、彼女はそれをひらりと避ける。


 ならばと今度は拳銃を取り出す。御誂え向きにサイレンサーがついて無音で打てるが、威力は据え置き。ヒーローにぶつかるが、彼女は無傷のようだ。


「ちょっとまってよ。僕は確かにゲームに勝ちたいけど、疲れたから今は一度撤退したいんだ」

「ゲーム……?」

「だから、これはゲームなの。VRってやつ」

「ぶいあーる、か……よくわからんが、しかし、一つわかる。これは現実だ。その、なんとかっていうものではない」

「はぁ?またわけわかんないことを……もういいや、面倒くさいから君も殺して、僕はこのゲームで優勝するっ!」


 ヒーローはソルジャーの剣を蹴り上げる。一撃で体に響く痛みは、今の状況じゃ勝てないということを、嫌という程わからせてくれる。


 が、逃げることは容易ではないだろう。やろうとおもえばソルジャーを殺すことは、簡単。それをしないのは、これがぶいあーるというやつだと彼女が、勘違いしているからだ。


 戦場にもいた。ソルジャーを前にして、余裕の上にあぐらをかくもの。勝てると確信するもの。そして、女、それも子供相手にと侮り手を抜くもの。多数いた。


 その結果どうなったか?それはここにソルジャーが生きているのが答えだ。息を吐き、心を落ち着かせる。彼女を殺すことが、バーグラーへの手向けになる。


「行くぞ、ヒーロー……貴様の墓場は——」

「まつっス!」


 その時、誰かの声がソルジャーの声を遮った。ソルジャーが、ヒーローを警戒しつつ後ろを向くと、そこには一人の少女がいた。


 作業着を着た、オレンジ髪の少女。泣き腫らしていたのか、目は真っ赤に染まっているが彼女の目は、強い意志が見えた。


「とりあえず状況説明をお願いするっスよ、二人とも……!」



 ◇◇◇◇◇



 ☆クリエイター


 時は少し遡る。シンガーの死を少しずつ受け入れていくクリエイターは、しかし、ヒーローが去った後もずっと泣いていた。


 初対面なのに、あんなに優しくしてくれて、周りのことを気遣えれるシンガー。もっと彼女のことを知りたかったと、後悔してももう遅い。


「……もっと仲良くしたかったっス……」


 その時だった。シンガーの腕がふっと姿を消し、代わりにそこに何かが落ちてくる。何事かと思いそれを持ち上げると、今度は顔を真っ赤にして、クリエイターはそれから目をそらす。


(こ、これバイブってやつじゃ……なんでここに……ん?)


 そのバイブには何か、赤い文字かが書かれていた。血文字書かれている文字は【タスケテ】とだけあり、それに気付くと同時に、クリエイターは走り出していた。


(シンガー……自分、あんたみたいにみんなを救おうなんてことできないっスけど……せめて、近くで助けを求めている人は……助けるっスよ)


 その気持ちで彼女は駆け出していった。そして、見つけたのはヒーローが魔法少女……名前は確か、ソルジャーか。そのソルジャーと戦っているところだった。


「とりあえず状況説明をお願いするっスよ、二人とも……!」

「あ、クリエイターいいところに!ね、ね。早くこのソルジャーを殺すの手伝ってよ。二人でさ、ドン勝しようぜ!」

「……そちらの方は、何かいうことあるっスか?」

「……我から言うことはない。が、しかし。ヒーローの味方をするなら、我は貴様も殺す」

「そうっスか……」


 腕を組み考える。助けを求めたのは誰だろうか。手にあるバイブを見ながら、ヒーローとソルジャーを見ると、ソルジャーが少し動揺したような顔になり、口を開ける。


「それは、ボタンを押したらグイングインなるやつ……なぜ、それを貴様が……?」

「いや、なんかいつの間にか飛んできて……タスケテって書かれてたので、助けに来たと言うかなんと言うか……」


 クリエイターはそう言う。その言葉を聞いたソルジャーは小さく「ふむ」とつぶやいた。


「それがお前の望み、か。ならば、叶えねばならんな」


 そして、ヒーローの方を向き、口を開ける。


「我は逃げる。追いかけようが追いかけまいが勝手にしろ」


 ソルジャーは突然そう言い残し、クリエイターの横を突っ切り窓を蹴破り外に出ていく。クリエイターは悩み、そしてすぐにソルジャーを追いかけていく。後ろの方から、ヒーローが呼び止める声が聞こえたが、それは聞こえないふりをした。


 前を走るソルジャーを見る。何を考えているかはわからないが、きっとこの行動で正しかったのだと思う。


 空はだんだんと明るくなって来ていて、それはこの夜明けがもうすぐ終わることを教えてくれていた。

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