1-17【味方は多い方がいいからな】

 ☆ヒーロー


 シンガーの死体を前にして、クリエイターがすすり泣いている。それを見ながら、ヒーローはため息をついた。


 確かにシンガーの死体はが、これは所詮なのだ。


(クリエイターって、子供なのかなぁ。リアルとバーチャルの区別がつかないみたいだし……)


 ヒーローはため息をつく。しかし、この死体をあまり見たくないというのは事実。とりあえずここから離れようかと足を動かす。


 屋上から出る。そのまま降り始めるが、途中で足を止めて耳をすます。すると、誰かの声が響き、聞こえてくる。


(……二人組み……?つまりそいつらも優勝目指してるって感じかな)


 クリエイターは戦力として期待できない。なら、一人で倒すしかないということだろう。そしてこれは、初の戦闘だ。


 ワクワクする。やはり、こういう気持ちが大事なのだ。ヒーローのスキルは変身。使えば他の魔法少女を凌駕する力を得ることができる。


 代わりに制限時間がある。しかし、それがくる前に倒せばいいのだ。簡単な話である。


(さて、まずは観察しないとね……)


 ヒーローは足音を立てないように動き出す。このゲーム。クリアするのは自分だと、彼女は信じていた。



 ◇◇◇◇◇


 ☆バーグラー


 城の中に入り、彼女たちは探索する。もちろん目的は、ジョーカーを殺すことだ。だから、ここに来た。


 シンガーを殺したのはアーチャーだが、それに加担したのは確実にジョーカー。まぁ、ここにはもういない可能性もあるのだが。


「……みろ、バーグラー。扉が閉まっている」


 ソルジャーに言われてそこを見ると、確かに扉が閉ざされていた。ギィと開けてそこを見ると、どうやらそこは階段に続いているようだ。


「……あくまでわたしの主観だが……ジョーカーは、開けた扉を律儀にしめるような奴に見えん。おそらくは、ここにジョーカーはおらず、代わりに誰かが来ている」

「なるほどなぁ……そしたらどないする?ここから出て行くっていう手も……」

「いや、むしろこれはチャンスだ……耳を澄ましてみよ。誰かの泣き声が聞こえる」

「……ほんまや」

「シンガーの死を悼んでいるのだろう。ならば、ジョーカーを殺すことの協力も結びやすくなる。味方は多い方がいいからな」

「それは確か……」

「あぁ。我のスキルだ。周りに敵対心がないものがいればいるほど……我自身は強くなる。ジョーカーはおそらく一筋縄でいかぬ。仲間は多い方が良い。それに貴様のスキルの使い勝手も上がるだろう」

「ふふ……せやな。うちのスキルは自分と相手の所有物を入れ替える……一定の距離にいれば、見えなくても取り替えが効くからなぁ。なかなかに強いと思うで」

「あぁ。仲間を増やせばそれだけ強くなれる……ゆくぞ、バーグラー」


 ソルジャーはそう言って進み出す。最初会った時、彼女はスイッチを押すとグイングイン動くアレのことを知らなかった。


 しかし、他のことは多く知っている。この扉のことだって、バーグラー一人じゃ気付かないものだ。


(ふふ……色々教えたいことあるし……教えられたいこともあるなぁ……)


 バーグラーは隠れてくすくすと笑う。その声に気づいたのか、ソルジャーがこちらを向き、そして走り寄ってくる。


 何か言いたいことでもあるのか。そう思うと同時に、体に強い衝撃が走る。ぐらりと体が揺れ始め、立つことすら困難になる。


 なにが起こったのか。それを理解するよりも速く、自身の体が、だんだんと赤く染まって行くことに気づいた。


「バーグラー!!」


 心配せんでええよ。


 そう声を出そうと思ったのに、声はかすれて出てこない。視線をずらし、自分の胸を貫いたものを確認する。


(なんや。これ……まるで、特撮のヒーローみたいや……)


 バーグラーはそれを確認し、自分の意識がだんだんと消えて行くのがわかった。ここで、終わるのか。


 いや、それでいい。私はそこまでまともな暮らしなどしてはいない。だが、ソルジャーはダメだ。彼女は何としても守らないといけない。


 そして、バーグラーはゆっくりと目を閉じる。助けるための行動はしたのだから、あとはそれがあの子に届くことを願うだけだ。



 ◇◇◇◇◇


【メールが届きました】

【正義の味方の一撃が、すけべ大魔王を殺しちゃった!これで少しは風紀の乱れも治るかな?】

【あと16人だって!みんながんばろー!おー!】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る