1-16【なんでここに呼ばれたのかなぁ】

 ☆パペッター


(どうしようかな……)


 電車に揺られながら、パペッターは考える。目の前にいる少女。ランサーは先程から、スマホのメール画面を見ながら、暗い顔をしていた。


 シンガーが死んだというメールは、確かに驚いた。しかし、彼女とそこまで親しくないパペッターにとって、その死はあまり心にダメージはない。


 が、ランサーは違かった。メールを見て、後悔の言葉を何度も述べていた。彼女は優しい人なのだろう。


 駅の中でオロオロしていた自分を保護し、そして守ると言ってくれたのだ。並大抵の精神じゃない。


(会話もとまったなぁ……)


 メールが来る前は、そこそこ談笑していた。あまり会話が弾まなかったのは、パペッターはとても緊張していたからだ。


 それでもランサーは会話をしてくれた。優しい。


(……そういえば、なんでここに呼ばれたのかなぁ)


 パペッターはここに呼ばれた記憶がない。それに、大きな願いもなく。本当にこの戦いに参加している理由がわからない。


 大切な記憶。なるものもない。それ以前に記憶の大半が消えているような気がする。もしかして、幸せな人生を歩んできたのかな?と、思うが、なおさらなぜここにいるかわからない。


 もし、近所のスーパーの割引品を必ず買えるといったような願いから、過去の自分をぶち殺してやろうか。そう思っていたら、ランサーの深呼吸する音が聞こえてきて、彼女が声をかけてきた。


「パペッター様。すみません、取り乱してしまい」

「い、いえ!!だだだ、だいじょーぶ、です!」

「……これ以上犠牲を出さないためにも……わたくしたちで、できることをしていきましょう」


 その言葉とともに、電車が駅に着く。ドアが開き、外に出ると同時に、空がだんだん明るくなっているのが見えた。


「ここからどこに行きましょうか」

「ふぇ!?え、えっと……じ、じゃあ……」


 パペッターは病院を指差す。理由は単純で、あそこは人が集まりそうだから、だ。それを見て、ランサーは頷き、パペッターの手を握り歩き出したのだった。



 ◇◇◇◇◇



 ☆スペクター


「電車……ね」


 ランサー達が去った後、スペクターは駅の陰から、体を出す。電車が来た時、念のため隠れたのだが、それが功を制した。


 さて、今の二人の行動を考える。ランサーは動揺していたようだが、そこまで大きくは見えなかった。


 ……はっきりいうと、シンガーの処刑を聞いたなら、あの心優しいお嬢様は、動揺しすぎていると思っていた。


 しかしそうじゃない。つまりこの電車は、完全防音ということだろうか?もしそうならば、何かに利用できるかもしれない。


「それにとっても固そうね……さて、次やることは……」


 スペクターは考える。彼女のスキルは【トラウマを想起させる】というもの。つまりは精神攻撃だ。


 優勝を狙うスペクターにとって、他の参加者は邪魔にしかならない。そして、今は減らすチャンスがやってきている、


(狙うのはもちろん……)


 スペクターは、足音を立てないようにゆっくりとランサー達が進む方に、進んでいった。手にある包丁を握る力を少しだけ緩めて。

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