1-14【いくらをいくら温めても何も産まれんで!】
☆クリエイター
【がぁぁあああぁぁあ!!!】
シンガーの叫び声が聞こえたと同時に、クリエイターは無意識に城の方に走り出していた。後ろからヒーローが呼ぶ声が聞こえるが、それに無視を決め込む。
どれくらい走っただろうか。メールの通知音をバックに、彼女は城の中に入った。そして、屋上に行ったとき、そこに胸に深々と矢が刺さったシンガーの姿があった。
「シン、ガー……」
この世界に初めてきたとき、優しく接してくれた歌姫が、絶望で顔を歪ませたような表情を浮かべている。
彼女の頬を触る。まだ少し暖かいが、だんだんと冷たくなっていくのがわかる。また会いたかったのに、会えなかった。
後悔が迫る。これは夢ではないということを、さらに言えばゲームではないということを、自覚していく。
「……シンガー、さん……ごめん……なさいっス……」
「わぁわぁ、なかなかにリアルな死体だねぇ」
後ろから能天気な声が聞こえてくる。バッと振り向くと、そこにはあくびをしながら、こちらにくるヒーローの姿だった。
「まだ……まだ、これを見てもゲームって言うんスか!?」
クリエイターはヒーローの胸元を掴み上げる。ヒーローはまだ、どこかこちらをバカにしたような顔を浮かべていた。
死体を見て。さらに摑みかかられても、姿勢を一切崩さないヒーロー。それは、クリエイターのイライラをさらに大きくしていく。
「人が死んだんスよ!?それでもまだゲームって言い張るんスか!!」
「ゲホッ……ケホッ……人が死ぬゲームなんて、そこらへんにあるじゃん。今更何を言ってるんだよ」
「はぁ!?じゃ。これはなんで説明するんスか!?」
クリエイターはそう叫び、シンガーに近寄る。胸から矢を引き抜き、そこから溢れてる血に指を突っ込む。
生暖かい感覚は、まるでシンガーの中にいるかのように感じられる。こんな生々しい感覚、ゲームじゃ味わえないだろう。
「でも。そういうリアルな感じゲームじゃないの?最近はすごいから」
「な、なな、な……」
呆れてか、それともヒーローから感じ取れる狂気からか、クリエイターは膝から崩れ落ちる。
彼女はおそらく、これをずっとゲームと言い張るだろう。クリエイターも、これをしばらく夢だと思っていた。ゲームとも思った。現実と捉えるのは、あまりにも遅かった。
「まぁ、いいじゃん。勝てばいいんだし」
「…………」
クリエイターは、ヒーローを見上げる。彼女は小さく笑っているが、その顔をもはや直視することは、できなかった。
◇◇◇◇◇
☆セイバー
「…………」
「せやから、ウチ言ってやったんや!いくらをいくら温めても何も産まれんで!ってな!」
「なんと!とても面白いです!!」
セイバーがベッドの上で眠ってる間、一人増えたようだ。確か、キャスターという少女だったか。
彼女とブースターは楽しそうに話している。セイバーは静かな方が好きだから、今は少し黙ってほしい。
だが、聞きたくなくてもなぜかキャスターの声は耳の中に入ってくる。まるで耳の中を無理やりこじ開けているかのようだ。
うるさいだけならいい。しかし、キャスターの声は何かと不快だ。底知れない、恐ろしさを感じる。
セイバーはわざとらしく大きな咳を鳴らした。
「……す、すいません。私、邪魔でしたか……?」
「ちょいと!セイバーはん!邪険に扱わんといてーや!」
二人が騒ぎ出す。数が少し傷むのだから、音量を落としてほしい。もしくはこの部屋から出て行ってほしい。なんらなら目の前から消えてほしい。
「……話すなら向こうに行け」
セイバーはそう呟いた。ブースターは文句を言おうとしたが、それをキャスターは止める。
「……まぁええわ。なんかあったら呼んでくれてええけんな?」
そう言って2人は病室から去っていった。セイバーはようやく静かになったこの部屋に安堵を覚えつつ、どこか寂しく感じている自分がいるのが、腹ただしかった。
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