1-6【あえてその誘いにのろう!】
☆セイバー
ファイターはこちらをにらんでいる。セイバーは逃げることはせずに、腰を低くして敵を向かい入れる姿勢を崩さない。
「ほほぅ……迷いのないその立ち振る舞い。本物のようだな……ならば、あえてその誘いにのろう!」
ファイターは駆け出した。砂浜の上なのに、まるで普通の地面の上にいるかのような、安定感があった。
体幹が優れているのだろう。だからといって引くわけにはいかない。セイバーは剣の柄に手を当て、一気に引き抜く。
ザシュ
大きな音がなり、ファイターの肩が一瞬で斬り裂かれる。赤い血が飛び散り、セイバーの顔にピチャリとつく。
これはかなり深い傷。確か少し歩けば病院があるはずだから、そこまで大事にはならないだろう。
「速いな。だが、それだけだ」
ファイターは止まらなかった。痛みなど恐れてないその行動を見て、セイバーは慌てて後ろに飛んだ。
痛みはあるはず。なのになぜ、彼女は動けるのだ。セイバーのスキルは【居合】効果は読んで字の如く。避けることはできないはずであり、まさか痛くないというわけではないだろう。
……いや。もしかしたらそのまさかもあり得る。ここは魔法の世界なのだ。現実でありえないこともあり得るだろう。
その時、セイバーは心の中が少しだけ暖かくなってくるのを感じた。ワクワクする。まさかそんな気持ちになるとは、セイバーは疑問を覚える。
が、次の瞬間、セイバーの顔面めがけて、ファイターが拳を突きつける。セイバーは顔を横にずらし、鞘を振り下ろす。
がんっと確実に何か折れる音が聞こえ、ファイターは右腕で防御したのがわかった。だが、彼女はまだ、それでも止まらない。
右腕を突き出し、セイバーを殴り飛ばす。身体中に砂をつけた彼女は、止まることなく転がる。ケホケホと口に入った砂を吐き出すが、ファイターは追撃をやめない。
飛び上がったファイターはセイバーに向かって足を突き出す。セイバーは剣で受け止めるが、あまりの衝撃に、全身にしびれが襲いかかる。
「くっ……」
セイバーは声を漏らす。しかし負けるわけにはいかない。剣に力を込めて、無理やりファイターを飛ばした。
ファイターは体をひねりながら地面に足をつけて、勢いそのまま駆け出してくる。防御を考えたが、またあのしびれを味わうだけだ。
ならばもう一度迎え撃つ。意識を集中し、敵との間合いを計算。そして、一気に剣を引き抜いた!
その一撃をファイターは避けない。その時、セイバーは攻撃を止めてしまう。なぜなら、このままいけばファイターの首が落ちるからだ。
その躊躇が、勝負を分ける。セイバーは止まり、しかしファイターは止まらない。ファイターの拳はセイバーの顔面に突き刺さり、鼻血を出しながら、飛ばされて行く。
「あの子の言うとおりにしてよかった……だが……失望したぞ」
「……?」
「決闘の一瞬に躊躇を入れるなど、愚の骨頂。恥を知れ、二流剣士」
お前は躊躇するのか?
そう反論しようとしたが、それよりも速く、セイバーの眼前にファイターの足が伸びてきていた。その勢い。頭蓋骨が潰れるほどだと、直感する。
終わるのか?そう思い、目を瞑る。いつのまにか片目の感覚がないのは、まだ生きてるんだなと思うだけで、それ以上のことはなかった。
「まちやぁぁぁぁぁ!!」
突然声が聞こえてきた。この声は、さっきまで聞こえていた、あの声。ブースターだ、彼女がジェットエンジンのようなものをふかしながらこちらに飛んでくる。
そして、ファイターの横をすり抜けセイバーを抱きかかえる。そしてそのままその場から立ち去っていこうとしていた。
「なにを……!」
「目の前で友達が死ぬかもしれんのに、見捨てるバカはおらんっちゅうねん!いいからさっさと目を閉じかい!」
ブースターの言葉を聞き、セイバーは口を開けようとする。しかし、すぐにやめた。下を向くと、ファイターがどこかに立ち去って行くのが見えた。
次こそは勝つ。
セイバーは心の中でそう決めた。二流の剣士の言葉を取り消さないと、この先後悔が続くだらうから。
◇◇◇◇◇
☆ファイター
セイバーが逃げた後、ファイターは近くの洞窟に隠れていた。理由は簡単。自身の傷を治すためだ。
ファイターは別に不死身ではない。先ほどまでスキルを発動していたのだ。名前は【不屈の意志】これを使うと、痛みを抑えることができる。
ただ、このスキルが切れた瞬間、体全身にその耐えた痛みが駆け巡る。そのため、今ファイターは休むことしかできないのだ。
しかし、受けた傷は時間が経てば癒え、痛みも耐えればいい。実質不死身のような力を与えてくれた運営には、不謹慎ながらも感謝をしていた。
「次会うときは……失望させてくれるな、二流剣士。さて……」
そういってファイターは地図を開く。次にどこに行くかを考えようとしていた。病院にはおそらくセイバーたちが向かうだろう。ならば……
「逆の方に向かうとするか。目的地は……商店街……待ってろよ強者どもよ!」
ファイターはそう気合いを入れて立ち上がった。そして、この先会う者のことを考え、ワクワクを抑えることができなかったのだった。
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