1-5【友達の次の分岐進化が親友か恋人やろ?】
☆アーチャー
ウェディングドレスを着た女性が、息を切らしながら、森の中を走っていた。途中転びそうになるが、それでもなんとか持ち直す。
(やばいやばいやばい!!)
アーチャーは先ほど見た光景を思い出す。カウガール姿の少女が、銃を乱射し、誰かを殺そうとしていた、あの光景を。
そんなものを見たら、人から冷静さと言うのは消えてしまう。現にアーチャーは今、冷静さは消え逃げることを優先に動いていた。
転がり込むように木陰の中に身を投げて、そのまま息をひそめる。聞こえないはずの銃声が聞こえてきて、思わず、嗚咽をあげた。
あの時自己紹介をした時の空気のまま、この先進むと思っていたのは、それはただの勘違いだと気づいたのは、もう遅い。
夢だと思いたい。けどこれは夢じゃない。ゲームでも、テレビでもない。これは現実なんだ。匂い、そしてあの緊張感から、アーチャーはそれを実感する。
あとスペクターと名乗った少女に殺されるかもしれない。もしかしたら、ジョーカーに襲われ、またもしかしたら怪物に食べられてしまうかも。そう思うと震えが止まらない。
「に、逃げないと……」
どこへ?どこに行けばいいのだ。外に向かって走ればいつか出られるかもしれない。しかし相手は、私たちをこんなところに閉じ込めた存在。きっとすぐに見つかって殺される。
もう鳥籠の中の鳥だ。まな板の上の鯉だ。アーチャーはどうすればいいかわからず、ただそこにいるだけになる。
アーチャーはただのOLだ。婚期を逃したくない、ただのOL。なぜそんな私がこんなものに巻き込まれてしまうのだ。
「だれか私を助けて……」
ふらふらとした足取りで歩き出す。その時、一人の少女が視線の中に入ってきた。アイドルのような服を着ている少女。シンガーだ。
彼女は城の中に入っていく。確か彼女は、この戦いを止めると宣言していたような気がする。
「まって……」
掠れる声を出して彼女は歩き出す。遠目に見えたシンガーの姿は、まるで光り輝く太陽のように思えてしまっていたのだから。
◇◇◇◇◇
☆セイバー
新撰組のような格好をしたセイバーは浜辺を歩き続けていた。潮風がとても心地よく、このままここで趣味である瞑想ができたら、おそらく幸せだ。
「なぁ、自分。そんな黙り続けずに、よかったらお話せん?」
「……」
しかし、それはできない。隣にいる少女、ブースターがしきりに声をかけてくるのだから。黙ったら死んでしまうのかと思うほどだ。
「うちの中から消えた大事な記憶ってなんやろな?なんかわかる?」
「願いが叶うって言うけど、これ眉唾もんやろ?ほんまに叶うなら、たこ焼き腹一杯食って死にたいわ。って結局死んでるやん!」
「自分、クールな顔して、なかなかにイケメンさんやないか。よかったら今度デートに付き合わへん?って同性同士じゃただの遊びにしかならへんがな!」
「そういやお友達以上恋人未満ってどこなんやろか。親友か?でも友達の次が親友。その次が恋人とは思えへんし。どちらかといえば友達の次の分岐進化が親友か恋人やろ?」
うるさい。とは言えない。めんどくさいから。だから、ただ睨みつけるだけで終わる。それを見るとブースターは「おおこわっ」と言ってにこりと笑う。構ってくれたのが嬉しいのだろうか。
ならば徹底的に無視を決め込んでやろうか。そう思った時、向こう側から人影が見えてきた。セイバーは剣の鞘に手を当て、ブースターは途端に緊張したかお持ちになる。
赤い色のまるで格闘家のような彼女はこちらを見てニヤリと笑った。そして、ダンっと踏み込んでこちらに走ってきた。
「おわっ!?じ、自分何を——ぐぇ」
ブースターが何か言う前に、少女の拳が彼女の鳩尾にめり込んでいく。唾を吐き、白目を剥きながら、彼女は倒れた。
黙らせてくれた少女に感謝の視線を向けるが、少女はそうじゃないらしい。こちらを見て、とても嬉しそうに笑う。
「俺はファイター。お前は?」
「……セイバー」
セイバーが名乗ると、ファイターは何度もその名前を口の中で繰り返す。そして、拳をこちらに向けて、口を開けた。
「なかなかの手練れとお見受けする。この場であったのも何かの縁だ。決闘を申し込みたい」
「……」
めんどくさいことになった。しかし、ファイターの目は真剣そのもので、断るということが、セイバーにはできなかった。
死なない程度にやればいい。セイバーはそう思い、剣を握る力を少しだけ強くしたのだった。
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