1-4【それに僕は猫より犬の方が好きなんだ】

 ☆ブレイカー


 コソコソと隠れるように港を歩く少女がいた。頭の上にある猫の頭を撫でて心を落ち着かせる。彼女はブレイカーだ。


 猫は撫でられるたびに気持ちよさそうにゴロゴロと音を鳴らす。それを聞くと、少しだけ心が落ち着くような、そんな気がする。


 ブレイカーは、とにかく死にたくない。記憶のことも大事だが、それ以上にあの時みたスペクターの顔が忘れられない。もし、ジョーカーを倒せば、こんどは自分が狙われそうだ。


 だからとにかくコソコソと。危険な怪物もいるのだから、尚更だ。しかし心のどこかで、誰か、優しい人が見つけて保護してくれないかと望んでいた。


 しばらく歩くと、一人の少女が港に腰掛けているのを見つけた。陰陽師のような格好をしていて、確か名前はガードナーか。


 声をかけるか悩んだ。彼女は四番目にあの輪から出た人物であり、それだけでブレイカーにとっては危険人物になり得るからだ。


「……隠れるならその猫をどうにかしたほうがいいと思うぞ、低脳」

「んなっ——!?」


 ガードナーに声をかけられてブレイカーは思わず隠れていることを忘れ大きな声をあげる。しまったと思うが、ここまできたらもうどうでもよかった。


 物陰から飛び出し、虚空から出現させた猫の手の形をした大きな武器を握り、ガートナーの後ろに立つ。彼女はそれでも前を見続けている。


 猫の手をガードナーの頭上にあわせるが、彼女は慌てることもなく、ただじっと海の方を見つめていた。


「あ、貴方がわたしに危害をくわえなければ、わたしは何もしませ——」

「説得力がないな。足が震えているのか、その振動が僕の尻にも伝わってくる。少しは落ち着いたらどうだ、三下。それに僕は猫より犬の方が好きなんだ」


 ぷっつん


 頭の中で何かが切れた、初対面の人間にここまで言われて、黙るような人間はいない。ブレイカーも基本心優しい少女だが……


「黙らんかこのドアホォ!」


 キレたらこうなる。


 ぶんと風を切りガードナーに向かって猫の手が振り下ろされる。しかし、ガードナーはそこを向くことをせず、ただぼそりと呟いた。


「結」


 その言葉とともに、ガードナーの体の周りに見えない何かが現れた。それにより、猫の手の勢いは止まられてしまった。


「っ、くそぅ!!」

「無駄なあがきはやめたまえ。低脳なバカにはわからないだろうが……これは僕が解除するまで、消えることはない。もちろん解除した時、内部の人間を殺すこともできる。所謂爆死という奴だ。ははっ、低脳な君にはお似合いな最期だ……じゃ、いこうか。め——」

「ドラッシャオラァァァァァァアァァ!!」


 ブレイカーは叫んだ。その叫びとともに、ガードナーが張っていた結界が音を立てて壊れていく。


 パリンッといった音をきき、ガードナーはその場から前に飛ぶ。先ほどまで立っていた場所は、猫の手が突き刺さり、大きな爆発とももに崩れ去っていた。


「方位、定礎」



 ガードナーは指を突き出しそういう。そして、目を閉じ、息を整え、もう一度先ほど言った結の言葉とともに、彼女は空中に立つ。


「なんだいそのパワー。デタラメにも程がある」

「おいてめぇこら!犬が好きとかいう言葉を取り消しやがれ!そのあと殴らせろ!!」

「そっちか?まぁいいや……とにかく、まさかこんなに馬鹿だったとは……さて、とりあえず少し眠ってもらうよ」


 ブレイカーが何か反論しようとした矢先だった。彼女の頭に何かがぶつかった。それがガードナーが出した結界だとわかるのと同時に、彼女は意識を失ったのだった。

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