1-3【俺はいまからその言葉通りに行動する!】
☆ファイター
住宅街の中にある大きな教会の前で、赤い服の魔法少女、ファイターは息を吐きながら腕を組んで居た。
彼女の周りには無数の何かの生き物の死骸が転がって居た。彼女の手には、いくつかの飴玉があり、それをガリガリと噛み砕いている。
「これがメールに書いてあった怪物か……そして倒せば飴を落とす。つまりこれが食料か……しかし……」
少女はそう言って顔についている赤い血を拭う。しかし、その血はすぐにさらに蒸発していき、ため息をつく。
「つまらん。圧倒的につまらん……俺は強者と戦いたい。それだけなのだが……あのばでそれをいうほど図太くはない……」
ファイターは所謂道場破りをしていて、強いものと戦うことを生きがいとしていた。ここにきた時、一瞬だけ気分が盛り上がったことは、事実だ。
周りを見てわかる。とてつもない強者が沢山いた。だが、あの瞬間「戦わせろ!」と叫んだら、立場がなくなる。
だからここに飛ばされた時、突然襲ってきた怪物達に少しだけ興奮した。それはすぐに変えたのだが。
とりあえずここから立ち去るか。そう思った時、教会の扉ががらりと開いた。そこにいたのは、修道女の格好をした魔法少女だ。たしか、名前は……
「キャスター、か?」
「……あなたは、たしかファイター様ですね!」
キャスターはパッと顔を輝かせて、こちらに走ってきた。ファイターは少しだけ後ろに下がるが、それより早く彼女は手を握ってきた。
「な、何を……!?」
「嬉しいです!ようやく、人に会えて……寂しかったのです。私……もう少し手を握っていいですか?この暖かさをもっと感じたいので……」
彼女はとても安らかな顔を浮かべていた。そんな顔を見て、この行為を止めるということはできなかった。ファイターはそういう女の子なのだ。
どれくらいだったのだろうか。キャスターの方を見ないようにしていたファイターに、彼女は声をかけた。
「なにか、悩み事がありますか?」
「なぜそう思う?」
「失礼ながら……先ほど、貴方様の顔を見てしまったのです。その時の貴方様の顔は……とても、何か思い詰めてるようで、気になってしまいました。よければ、私に話してくれませんか?」
「……実は俺は……」
その時のキャスターは、ファイターから見たら、何か神様のように見えた。だから、口から言葉がポロポロと溢れていった。
◇◇◇◇◇
☆キャスター
「助かったキャスター!俺はいまからその言葉通りに行動する!」
「ええ、お気をつけて!」
キャスターは走り去っていくファイターを見送った。ファイターから聞いた話。誰か強者と戦いたいというのを聞き、彼女はすぐに返事を返した。
戦いたいなら無差別に戦えばいい。ただし、殺さない程度で。
その言葉を聞き、ファイターは反論した。その言葉を、キャスターは一つ一つ潰していく。
問い。戦う気のないものが相手なら?
答え。それなら貴方の初撃で逃げていく
問い。戦う気はなくても止むを得ず戦うものが相手なら?
答え。尚更戦うべき。
問い。何故?
答え。なぜなら——
「格闘家は拳で語り合えますからね……貴方が善意がある真の格闘家なら、わかってくれるはず……ふふっ」
キャスターはそう言って小さく笑う。教会の方を向いて、彼女はぺこりと頭を下げて歩き出した。
……ここで勘違いしてはならない。キャスターの根は善人だ。彼女の言葉に悪意はなく、ただただ、善意で塗り固められた言葉をファイターに投げただけ。
「いい事しました……悩みを消えたみたいで、私はとても気持ちがいいです。ふふ。この調子で、皆さんの悩みを解決していきたいですね」
そう言って彼女は聖歌を歌いながら、歩き出した。その足取りはとても穏やかに、そして、軽快に。
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