深夜

1-1【3人くらいなら一度に相手にできますヨー!】

 ☆ギャンブラー


「くそっ……なぜこんな目に……!!」


 ギャンブラーはため息を吐く。あの部屋から出たあと、飛ばされたのは森の中だった。ここからどうすればいいかわからないが、とりあえず歩いている。


 ここにきた瞬間、メールで地図が届いた。どうやらここは3×3の9個のエリアに分けられるらしい。


 一番上の段が温泉、港、病院。真ん中の段が駅、城、また駅。そして一番下の段には商店街、住宅街、浜辺があり、それらのエリアの間には森が広がっているとのこと。


 まるで色んな所を無茶苦茶につなぎ合わせたような地図を見て、思わず絶句する。そして、今改めて起きてる状況を頭の中で確認し始める。


「意味がわからんっ……!願いを叶える……そして……消えた記憶……!ついていけん……!」


 ギャンブラーはそういってまたため息を吐く。死にたくない。そして可能なら、消えた記憶というものを手に入れたい。が、殺す勇気はない。


「ふざけろっ……!そもそもなんで私はこのゲームに参加してるんだ……!?」


 自問自答。答えは出ない。なんでこれに参加したのか、その記憶は曖昧だった。まるでここだけがすっぽりと抜け落ちていて、これが大切な記憶なのかもしれない。


 ……が、願いはある。やることなすこと全てが空回り。それはもちろん彼女が好きなギャンブルでも。故に彼女は、運が欲しいという願いがあった。


 願いの記憶はある。つまり願い=大切な記憶というわけではないのだ。もっと考えたら答えが出るかもしれないが、いくら考えても何も答えは出てこなかった。


 今日何度目かわからないため息をつく。とにかくどこかに行かないと。そう思い地図を見た時だった。何かが自分の頬を掠めた。


「なっ……?」


 手で触れてみると、ジワリと生暖かい感触に襲われる。そして、べちゃりと液体がついたような音も。


 慌てて彼女は茂みの中に飛び込んだ。それと同時に、先ほどまで彼女がいたところに、銃弾の雨が降り注ぐ。


「はぁい!どこに隠れましたカー?」

「この声……ガンナー……っ!!」


 ガンナー。その名前をいうと「はぁい!」と陽気な声が返ってきた。そしてまた、銃撃の嵐。ギャンブラーは木を陰にして隠れることしかできなかった。


「馬鹿……ッ!そんなことをしたら音でバレるだろ……!」

「心配ご無用デース!3人くらいなら一度に相手にできますヨー!」

「そんなこと言ってるんじゃねぇ……!くそっ……くそっ……!」


 あまりにも早すぎるのではないか?こんなところで終わりたくない。彼女は目を瞑り、そして答えを探し出す。


 ……見つけた。


 ポケットを弄り、二つのサイコロを取り出し、そして思い出す。あの時彼女がいった言葉を。


「ガンナー……!一つ、提案がある……!!」

「なんですカー?命乞いなら聞きまセーン!」

「ちがう……!!シンプルな事だ……!!」


 そういって彼女は二つのサイコロのうち、赤い方を音が聞こえる方に投げ捨てた。コロンという音ともに、銃撃が止みしばし静寂が広がる。


 残っている一つのサイコロをじっと見ながら、目を閉じる。そして、その静寂を破るため、ギャンブラーは口を開けた。


「前金……!私のスキルの一つをくれてやる……!だから、手を組め……!ガンナー!」


 この選択が正しいかわからない。だが、彼女は賭けたのだ。こんな極限状態でも賭け事をするなんて、馬鹿げている。


 しかし、彼女は。


「——OK。その提案、飲みまショウ」


 この賭けに勝った。

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