0-3【次会ったら殺すから】
☆ランサー
(どうしましょうか……)
ジョーカーと名乗る魔法少女が外に出て行った後、残された十七人はただ黙っていた。単純に、下手に動きたくないだけだろう。
真っ先に動いてしまえばそれはつまりこのゲームに乗っているということだ。それだけで周りがそれに向ける視線はきつくなる。
「よーしっ!出発だ!」
そんなとき突然声が聞こえた。その声を上げたのは、小学生くらいの背ので、服装も特に変ではない、ただの女の子だ。
その子は意気揚々と扉の外から出て行こうとする。ランサーは慌てて止めようと思って手を伸ばしたが、その少女はそれよりも先に外に出て行った。
一人減り十六人。このままじゃ、ラチがあかない。良くも悪くも一人外に出たため、少しだけ空気が緩み始めた。タイミングを見て、ランサーは口を開ける。
「皆様、ここはひとつ自己紹介をしませんか?わたくしはランサーと申します」
そう言ってランサーはぺこりと頭を下げる。これでどうなるかと思いながら、目を瞑ると、一人の少女の声が聞こえた。
「はぁい!私シンガー!こんなゲームに真面目に参加する気はないって言っておくよ。ささ、クリエイターちゃんもっ」
「えっと……自分はクリエイターっス。自分もそこまで……はい。よろしくっス」
アイドルのような服をしたシンガーと作業服を着たクリエイターがそう言い、ランサーは内心でガッツポーズをとる。
そして、この二人の挨拶を皮切りに他の魔法少女たちも口を開け始め、自己紹介を始める。
「……セイバー」
新撰組のような格好をした少女がそれだけ言って目を閉じて頭を下げる。口数は多くないタイプなのだろうか。
「アーチャーよ。馴れ合うつもりはないけど……ま。ほどほどにね」
ウェディングドレスを着た見た目13〜4くらいの少女がそういう。その後小さな声で「まだ結婚してないのにこんなの着せるなんて」と呟いたのをランサーは聞き逃さなかった。
「ハァイ!ガンナーデース!なんか困り事があったらなんでも言ってくだサーイ!お金くれたらなんでもしマース!」
カウガーイの格好をしたガンナーはにこりと笑い手を振る。とても明るく喋るのは、この異質な空間が実は嘘なのではないかと疑ってしまうほどだ。
「俺はファイターだ。まぁ……そのなんだ。もし……いや。なんでもない」
赤毛の格闘家のような服を着た少女は下を見る。隠してるつもりだろうが、貧乏ゆすりを続けていた。
「ブレイカー、です。お、お願いします!!」
猫耳をつけた幼女はそう挨拶をする。よく見ると頭の上に白い猫が乗っていて、にゃーと鳴き声をあげた。
「うちはブースター!ま、よろしく頼んまっせ!」
ウィンクを華麗に決めた彼女は背中についている機械でできた羽のようなものをコンコンと叩いた。
「我(わたし)はソルジャー。我からは何もせん、が。もし我に手を出したら……わかっておるな?」
軍服の少女はそう言って睨みを利かす。先ほどのブースターは「おおこわ」と呟いてぶるりと体を震わせていた。
「わちきはバーグラーいいます。よろしくたのんます」
彼女はそういいにこりと笑う。物腰は柔らかそうで、優しそうに見える。しかし、ランサーは彼女のことはあまり信用できないと直感した。
「僕はガートナー。一言で言うと、天才さ。君たちと僕とでは次元が違うということを、忘れないでくれよ?」
陰陽師の服に身を包んだガードナーが、手にある狐のお面をくるくる回しながら周りを見る。その視線はまるで全てを見下してるように見えた。
「私はキャスターです……うぅ。なんと恐ろしい事が……皆さんで手を取り合い、頑張りましょう!」
修道服を着たピンク髪の少女がそう言って膝から崩れ落ちる。その間にも瞳は開くことはなく、ずっと閉じたままだった。
「ギャンブラーだ……!!こんなゲームに巻き込まれるなんて……ついてない……!!」
まるでトランプを擬人化したような格好をした彼女はそう言って小さく舌打ちをした。なんとなく【ざわ……ざわ……】と聞こえるのは、気のせいだろうか。
「パ、パペッターでしゅ……じゃない。です……」
マスクをつけて両手に天使と悪魔の人形をつけた少女はそういって、恥ずかしそうに俯く。心なしか、二つの人形も照れてるようにみえた
「さて……これで残りは……」
ランサーの言葉とともに全ての視線が一人の少女に集まる。貞子のような格好をした、あの少女だ。
視線を向けて、彼女はうつむき。そして小声で「スペクター」と呟いた。髪で顔が隠れてるため、表情は読み取れない。
とにかく今ここにいるのは十六人。これだけいるなら、何かいい案が一つくらい浮かぶだろう。彼女はそう思って口を開けようとした。
しかし、第一声を放ったのはランサーではなく……
「さっきから黙って聞いてたら……みんなバカなの!?」
スペクターだった。
◇◇◇◇◇
☆スペクター
なんなのだこの空気は。彼女はそう叫んだ。おそらく今からランサーとかいうやつは、みんなでおててつないで仲良くとかいう出すだろう。
ふざけてるというレベルじゃない。皆もしかして先ほどの話を忘れてるのではないだろうか?
消された大切な記憶。それの話を忘れている。記憶を取り戻せるのは多くて二人。十四人は、大切なことを思い出せずに一生を終えるのだ。
そんなこと嫌だ。スペクターの記憶の中にぽっかりと空いた穴を見ながら、彼女は叫んだ。
「お、落ち着いてくださいスペクター様。何か良い手が見つかるはず……」
「希望論なんていらないわよ!そ、それとも何?あんたは自分だけ記憶を取り戻そうとしてるんでしょ!?」
「ちがいます。わたくしはただ……」
「うるさいわね!私は一人で勝手にやらせてもらうわ!……次会ったら殺すから」
これでいいのだ。記憶を取り戻す確率を上げるには、これしか選択肢がない。穴を埋めないと、意味がない。
彼女の足取りはどこか重く。されど、しっかりと前を向いて歩き出していたのだった。
◇◇◇◇◇
☆クリエイター
なにやら大変なことになった。これは夢のはずなのに。
スペクターが去った後、真っ先にガードナーが口を開けた。内容は簡単で「僕も勝手にやらせてもらうよ」であり、その後彼女も去っていった。
そしてまた一人。また一人と部屋から去って行き、残ったのはシンガーとクリエイター。そしてランサーだった。
もしかしてこれは夢じゃないのかもしれない。そう少しずつ自覚していく彼女に対し、シンガーが声をかけた。
「ねね、クリエイターちゃん」
「なんっスか?」
「うーんと……私、このゲームを止めたいの。みんなで手を繋いで、仲良くなればきっと変わるはずなんだ!スペクターちゃんたちもわかってくれるはずっ」
「そういうものっスかね」
「そういうものだよ!だからさ、みんなを一箇所に集めようと思うんだ!大丈夫、作戦はあるから……それじゃ、いこ?クリエイターちゃん!ここにいたら誰も救えない……そうだよね、ランサーちゃん!」
突然名前を呼ばれてランサーはピクリと体を跳ねさせる。そして「仕方ないことですわね」と小さく呟き、ゆっくりと外に出ていく。
残された二人は顔を見合わせる。そして、シンガーはクリエイターの手を掴んで走り出した。
「それじゃ、また後で会うね!」
その言葉と共に二人は外に出た。瞬間、体に謎の浮遊感がクリエイターの体に襲いかかった。気持ち悪さがあり、思わず目を瞑ってしまう。
しばらくの時間を置き、ゆっくりと目を開けると、そこは見知らぬ森の中だった。近くにシンガーの姿はなく、離れ離れになった事実に気づき、これからどうすればいいかを考えねば。
その時、だった。ガサガサと木々をかきわける音と共に、誰かが飛び出して着た。その少女に見覚えはあり、クリエイターは思わず驚きの声を上げた。
「もー!このゲームリアルすぎて難しいよー!!……ってあれ?きみは……」
「ひぅ……!!」
クリエイターは腰を抜かし倒れこむ。いつのまにか持っていた大きなレンチを目の前の少女に向ける。
しかし、少女はこちらに歩いてくる。その少女は、ジョーカーの次にこのルームを出た少女。それが、にこりと笑いクリエイターの手を掴んだあと、口を開けた。
「ねね、キミ!僕と同盟組んでよ!ね?ね?」
「……え?」
二人しかいない森の中に彼女の間の抜けた声だけが辺りに響いていったのだった。
◇◇◇◇◇
【JGを開始します】
【皆様、死ぬ気で頑張ってください】
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