第六話「肝試し」
「はいじゃあ優一引け!」
二日目の夜、とうとう肝試しである。今日の昼間もさんざん遊んだのに、未だそんな元気があるのは何故なのか、と問いたくなるが、そこはたいした問題ではない。
紙を引いて妙に手渡すと、
「おっ、優一はみゆきとだね。」
そう言った。
「順番は、最後!」
最後になったらしい。
しばらくすると楠山妙はテニスボールの入った缶を賽銭箱のところにおいてくる、と言って鳥居をくぐっていった。
さて、肝試しの会場となる神社だが、なかなかに大きな神社である。だが、大きいからといって人が沢山いるわけでもなく、よくわからない神社なのだが、そんな真っ暗な神社に平然と入っていった楠山妙の肝が一番据わっているんじゃなかろうか。
最初の組は杉原高井さんペアである。二人で並んで歩きながら危なげなく帰ってきた。
二組目、村田小向さんペアである。もとからそんな感じだし、はじめから手をつないでいたし、奥でナニしてたのかわかったもんじゃない。
さて、懐中電灯を手渡され、鳥海さんと並んで歩く。
* * *
優一くんが横に居る…。
何かアピールしないと…。
そうだ、ちょっと身を寄せてみよう…。
せっかくだから腕を絡めてみよう…。
* * *
鳥海さんが怖いのか、身を寄せてきた。まあ、確かに真っ暗だし、不気味だし、しかたないだろう。
鳥海さんに歩幅を合わせて参道を歩く。
鳥海さんはとうとう腕に腕を絡めてきたが、まあ、仕方がないだろう。少し恥ずかしいが、こんな夜の神社で人のことを見るような人なんていないだろう。
そのまま暫く歩くと、拝殿が見えてきた。賽銭箱の横にはしっかりと缶が置いてある。
「お、あった。」
僕がそう唐突につぶやいたせいか、鳥海さんはひぃっと声をあげて僕の腕にしがみついた。少し震えている。怖いのだろうか。
* * *
言わなきゃ、言わなきゃ…。
優一くんはテニスボールの入った缶に手を伸ばした。
「あのね、優一くん…。」
* * *
「なんか遅くね?」
岩に腰掛けていた杉原がそうつぶやいた。
というのも、他の二組が10分ほどで帰ってきたのに対して、みゆき優一ペアは20分もかけているのである。まだ掛かるかもしれない。
「なんかあったんじゃない?」
近くに立っていた高井がそうつぶやいた。それと同時に誰も見ていないところで楠山は、キリと口角を上げた。
* * *
「す、す、すすす、」
「どうしたの、鳥海さん。」
鳥海さんの様子がどうもおかしい。何かを言おうとしているのだが、全然声になっていないのだ。幽霊でも見たのだろうか。それに、す?
「優一くん!好き!付き合って!!!」
「えっっっっ。」
* * *
ああ、とうとう言ってしまった。振られないだろうか、嫌われないだろうか、大丈夫だろうか。
怖い、怖い、とても怖い。
でも、一度口にだしてしまったものは戻ってこない。
いや、この際振られてもかまわない。私は、優一くんの答えを知りたいのだ。
たとえ振られても、私はあきらめない。
* * *
「いいよ。」
優一に断る理由なんてどこにもなかった。
「ほ、本当に?」
「ああ、本当だ。」
暫く二人の間に沈黙が流れたあと、優一はふとつぶやいた。
「なんてラブコメだ?これ。」
「あ、ありきたりでわるかったな!」
優一はふふ、と笑うと、
「まあ、いいんだけどな、みゆき。」
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