第十二話「休日のおでかけ」

 実は名前も知らなかったイケメンに殴られその間にはいった鳥海さんがイケメンをビンタなんかした濃い一日からはや三日。休日に誰かに出かけようだなんて誘われるのはいつ以来なのだろう、杉原に誘われて山に登ることになった。山といっても、特に道具とかそういったものが必要なわけでもなく、手軽に登れて山頂には神社があるとか、そういった山である。

 3、4人で行くのかと思っていたら、6人にまで膨れ上がり、面子を紙に書いてくれと頼むと、

「八野、俺、茂、鳥海、高井、小向」と殴り書きした紙を投げられた。最後の二人はそういえば居たなみたいなレベルで全然かかわりがないが、まあそんなことはどうでもいい。なんとか、何事もなく最後まで行くことができればいいが。


 そして日曜日の早朝、学校前の駅に集合である。電車を降りて改札を出ると、言い出しっぺ杉原はどうやら遅刻のようだ。僕が時間ピッタリくらいに到着する電車にのってきたため、僕のあとに来る人間は必然的に遅刻である。

「やっぱりアイツは遅刻だな。早朝にしておいてよかった。」

 村田はそんなことを言いながらショルダーバッグからスマホを取り出し、手際よく操作し始めた。どうやら杉原に連絡を入れるらしい。

 少し人間観察をしてみよう。

 村田は半袖の白いシャツの上から緑のチェック柄の長袖シャツを羽織っている。黒いズボンで、肩から黒いショルダーバッグをかけている。ちょっとしたこういう出かけには丁度よさそうな服装をしている。

 鳥海さんはアイボリーの半袖Tシャツに上から黄緑色のパーカーを羽織っている。小さめのリュックを背負っており、なんとなく、動きやすそうなズボンを履いている。

 高井さんは男子の語彙では表現できないなんともオシャンティな服装をしている。カラフルでかつ調和が取れている。こちらはショルダーバッグを肩にかけている。

 小向さんは一転してモノトーンでこれはこれであっているのではなかろうか。黒いズボンに白いシャツを着ている。こちらは少し大きめのリュックである。

 と、そのとき髪はボサボサわけのわからない服装な杉原が駅から走ってきた。

「わりぃ、遅れた!」

謝ったものの鳥海さんはぷんぷんしている。

 そしてわけのわからない杉原は一同を先導して電車に乗り込んだ。


 電車に揺られること二時間ほど、何度か乗り換えをして今はボックスシートに座っている。少し狭いが、四人がけであろうと推測される席に六人で。男子3女子3で座ればいいものを、男子1女子2と男子2女子1に分かれて座るというわけのわからない構図になっている。ちなみに僕は前者である。前に男子二人が居て、隣に鳥海さんが居てその隣が高井さんだ。前の2人は左から杉原村田、そして村田の隣に小向さんが居る。

 鳥海さんがうとうとしてこちらにもたれたりしている間に電車は終点に到着するようだった。終点の到着放送が流れ、電車はゆっくりと減速を始める。

 電車が完全に停車し、車両の前後にある扉がガコン、と音を立てて開いた。

 鳥海さんを高井さんと協力して起こし、6人でホームに降り立つ。

 少し寂れた感じのある駅をあとにして、少し歩いたところに、ケーブルカーの駅があった。これに乗って上まで行くのかと思ったら、杉原は

「山、登るにはどっちから行けばいいんです?」

なんて聞き始めた。まさか足で登るつもりなのだろうか。

 聞き終わったのか、杉原はそのまま僕たちの前を素通りし、先人をきって坂のほうへ歩いていった。

 少し坂をあがったところで超急な階段が現れた。これは降りるのに骨が折れそうだが、杉原は行くぞ、と軽口を叩いて早いペースで登っていく。他五人はゆっくりと歩いているが、杉原は階段をひと段落上り終えたようだ。これは、少し登るだけで相当疲れる。


 半ばくらいまで来ただろうか、早くも僕がバテて、鳥海さんに引っ張られながら登る羽目となっている。サッカー部、陸上部、そして文化系運動部などとも呼ばれる吹奏楽部は割かしスイスイ登っている。なんでそんな軽がると登れるのだろうか。何故かニヤニヤしている杉原を怨めしげに見ながら鳥海さんに引っ張られること15分ほど。ようやく頂上が見えてきた。最後まで鳥海さんに手を引かれ、なんとか頂じょ……?

「下社」

と書いてあることから見て取れるが、これは、頂上じゃないようだ。

「まさか、上まで登るのか……?」

「バカ言え、んなわけねぇだろ。ここまでだよ。この階段上った先に神社が見ての通りあるから、そこを参拝してから今日は帰る。」


 僕は軽く参拝を済ませてすぐにベンチに座りこんでいた。すると鳥海さんは僕を引っ張って裏にある薄暗い、いくつかの蠟燭がともしてある空間に連れて行った。

 鳥海さんがこれやろう、と言って300円を奉納し、それくらいはいいかと思い僕も300円を納める。沢山並んでいる蠟燭の中から一つを選び火をつけそれを大まかな願望の書いてある棚に置く。僕はこれといって夢とかもないので一番上にあった一番大まかなところにおいておいたが、鳥海さんは恋愛成就のところに置いたようだ。


 そんな風にみんないろいろ自由に神社を回り、一通り終わったら、帰りは面倒だからケーブルカーで降りようということになった。


 また、ボックスシートの電車に揺られている。僕以外の五人は寝ていたり、うとうとしていたりしている。鳥海さんはとうとう我慢できなくなったのか僕のほうにもたれてきた。

 まあ、たまにはいいだろう。助けてもらったしな。

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