第十一話「鳥海さんご立腹」
最近、鳥海さんがぺたぺたとくっついてくるようになった。あまり女子と触れ合うのは好きじゃないので、ある程度は避けるようにしているのだが、執念深く鳥海さんはくっついてくる。なんなのだろうか、嫌がらせなのか。
「おい八野!!ちょっと来いッ!」
唐突に某イケメン男子に首根っこをつかまれ引きずられる。
――ああ、とうとうこのときが来たか。
なんて悠長に考えてはいたが、痛めつけられたりしなければ別に僕に害は無いので、素直に従っておくのが最適解だろうか。
「オイテメェ!みゆきさんとどんな関係だッ!」
ほら、きた。絶対いつか来ると思ったよ。というか、くると思ってたんなら何で僕は返答を考えていなかったのだろうか。
「どういう関係もこういう関係もないんだが。」
「嘘をつけ!!!じゃあ何故あんなにみゆきさんとくっついているんだ!!」
「こっちが聞きたい。それは鳥海さん本人に聞け。僕の知るところではない。」
僕は何ひとつ嘘はついていない。これで本当に鳥海さんに聞いてくれればしめたものなのだが、どうせコイツが鳥海さんにそんなことを聞くわけはないだろう。
「ふざけんな!吐けッ!!!」
イケメン男子は僕の胸ぐらをつかんで上に持ち上げる。
「だからぁ、吐くも何も無えって言ってんだろ。」
* * *
いつも放課後は暫く自席に座って本を読んだりしている優一君が今日は自席に居なかった。荷物は置いてある。どうしたのだろうか。トイレだろうか。
床を見てみると、優一君が今朝から読み始めてる文庫本が落ちていた。ただ落とした、というよりは荒々しく投げ出されたような格好になっている。少し妙だ。
さらに床を探っていると、よく優一君が弄んでいる扇子が転がっていた。
これは本格的に何かあったのかもしれない。優一君はあの扇子をいつも肌身離さず持っている。
暫く廊下を走ると階段の上から人を殴るような音が聞こえてきた。
いや、正確に言うなら殴るときに音なんてほとんどしないのだが、肌を叩く音というのが正しいのか、そしてうめくような声。
「何してるのッ!」
* * *
「何してるのッ!」
鳥海さんの声が響いた。目の前のイケメンくんは目に見えて動揺している。
「何ってみゆきさん、じゃれてただけですよぉ、嫌だなぁ、怖い顔しちゃって。」
鳥海さんは黙って間に割って入ると、イケメンの整った顔を思いっきり叩いた。
――パシィンッ!
平手打ちの音が響く。見事に顔が赤くなっていて見ていて面白かった。
誰かに守ってもらえるってこともあるのだな、と最近少し思い始めている。
ちなみにだが、イケメンくんは退学になったらしい。いや、実は自主退学だか退学処分だかよく分かっていない。
また、後日そのイケメンくんから連絡が入り、鳥海さんに確認したがそういう関係じゃないといわれた、すまなかった、などと小学生並みの謝罪文が届いた。そのことを鳥海さんに話すと鳥海さんはまだご立腹の様子だった。
僕のほうはといえば、軽い打撲だけで済んだ。
軽い打撲で済んだのに、鳥海さんは毎日後ろから怪我は大丈夫か、なんて声をかけてくる。
いい加減、疲れないのだろうか。
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