第十話「鳥海さんの家」
珍しく鳥海さんが話しかけてこないと思ったら、どうやら欠席のようである。風邪でもひいたのだろうか。クラスを見回してみるとマスクを着用している奴が多数いる。風邪が流行っているのだろうか。
ちなみに僕は無駄に健康なので風邪はあまりひかない。インフルエンザは4年に一度くらいの確立で掛かるだろうか。
まあ、つまり僕はとっても健康である。
普段よりも静かな教室で帰り支度をしていると、担任が封筒をもってやってきた。
「八野さ、鳥海と仲いいよな。ちょっとこの封筒届けてくれないか?」
「届けるのは構いませんけど、家知りませんよ。」
「あー、そうだ、住所だ。えっとな、これだ、これ。結構重要な書類だから早く持っていってやってくれ。じゃ、頼むぞ。」
頼まれてしまった。珍しいノーみゆき達成なるかと思ったのに。ノーみゆき…、ノー鳥海より語呂がいいような気がする。
スマートフォンのマップアプリでその住所を調べてみると、どうやらアパートのようだ。ルートを検索すると、バス一本でいける場所のようだった。
駅から出ているバスに乗り込む。夕方なのでそれなりに人は乗っているが、まあ、座れないことはない。一人がけの座席に腰掛け、音楽を聞く。
バスに揺られること約十分、降りるバス停に到着した。
そこから徒歩1分ほどで紙に書いてあった住所付近に到着した。
一軒一軒住所を確認し、目的の住所に到着した。
それはこじんまりとしたアパートで、二階建ての悪く言えばボロアパートである。そういえば前に親がいないと言っていたような気もするし、一人暮らしには丁度いいアパートなのだろう。紙を改めてみてみると、隅に小さく201と書いてある。
そういうものはもっと大きく書くべきだと僕は思うのだが。
少しさび付いた階段を上り、201というプレートの貼られた部屋のインターホンを押してみる。
――ピンポーン。
よく聞く例の音がして暫くすると、中から何をしているのか良く分からないが音が聞こえてきた。
――ガシャリ。
「どちらさま………優一くん…?」
めっちゃげっそりしている。髪はボサボサ、服もとてもだらしない。ただ、必要最低限隠すところは隠せているしいいのだろうか。
「これ、担任が渡せってさ。」
「あ、ありがとう。お茶でも飲んでく?」
風邪ひいてる人の家でお茶飲むってどうなんだろうか。
「まあ、中入って。」
まだ答え言ってないぞ。僕はまだ一言も飲むなんて言ってないぞ。風邪で幻聴でも聞いたんだろうか。
まあ、体調が優れないようだし、少しくらいならいいか。
とてもだらしない鳥海さんとは裏腹に、家の中はとても綺麗だった。まあ、綺麗とはいっても元があのアパートであるから、大体そんなものである。
居間中央にあるテーブル(ちゃぶ台みたいな)の一辺に向かい正座で腰掛けた。
暫くしてから鳥海さんはお盆にお茶を二つ乗せてやってきた。
そして、僕にくっつくように座った。別の辺に向かって座ればよかろうに。
熱があるのか意識が朦朧としているようで、油断していると僕にもたれてくる。いつか寝てしまいそうだ。
お茶を飲み終わり、僕が席をたとうとしたとき、まあ見事に鳥海さんは寝てしまった。
さすがに風邪をひいている人を今に放って帰るわけにはいかないので布団に寝かせよう。
いくつか部屋を見たうち一つの部屋に布団が敷いてあったので、鳥海さんを抱きかかえてそこに寝かせる。俗に言うお姫様抱っこという奴だ。
鳥海さんを布団に寝かせ、乱れだ服をある程度直してから、メモを枕元に添えておく。
『寝てしまったので布団まで運びました。。
鍵はドアについているポストに入っています。
お茶、おいしかったです。ありがとう。
八野』
とこんなもんでいいだろうか。やましいことは何一つ無いし、さあ帰るとしよう。
無造作にテーブルに置いてあった鍵を取り、外に出て鍵を閉める。そしてドアのポストに入れておく。これで完璧だ。あとは帰るだけだ。
「優一君!おはよう!!」
ああ、今日はやかましいんだろうな、と少し憂鬱になりながら挨拶を返す。
鳥海さんは昨日のことについて何も言わないので、一安心。
と朝は思っていたのだが、放課後、鳥海さんに呼び出された。
「ゆ、優一くん…、変なこと、してないよね…?」
「おそらく鳥海さんが思い描いている変なことは一切してないな。」
「ならいいや。ありがとね。」
鳥海さんは顔を赤らめながらそういった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます