第九話「会議室にて」
今日はヤバい。この時間だといつもの電車に乗り遅れる。さらに言うなら今日は遅れられない理由がある。別に何か約束があるとかそういうわけではないが、国語の先生に早めに来いと言われているのだ。
――これは約束じゃないか。
ちなみに早く来いなんていっても別段早いわけではなく、僕にとってはいつもどおりの時間だ。
なんとかいつもの電車に乗り込み、あとはもう普通に行くだけだ。急ぐ必要はない。
学校へ到着し職員室で国語教師を呼ぶと、
「おお、きたきた。ちょっとこっちへきておくんなまし…。」
僕は黙って付いていった。
ところで、目の前に居るこの国語教師は20台といえば20台に見えなくも無いが一応30歳程度の女性教師だ。口調が古文調なので完全におっさんだが、根はいい人だ。いや、口調と中身は関係ないか。確か楠山妙とか言った気がする。どうでもいいが、教師なのにすごい勢いで呼び捨てられている。
「妙ちゃんおはよー」
なんてね。
んでそのお妙はあまり使われていない会議室の扉を無造作に開けた。
「入りたまえ。」
「はっ!」
なんて少しふざけながら会議室に入ると、鳥海さんがひたすらプリントを折りたたんでいた。
「えーっと、それで僕は何をすればよろしいのでしょうか。」
「その鳥海の折りたたんだ紙っ切れをそちらの封筒に入れてほしく存ずる。」
「思うでええやん。」
そう鳥海さんが突っ込むと、
「せやったらいっそ関西弁でしゃべるか。」
なんて関西弁に切り替え始めたが、調子に乗って関西弁話しまくっていると標準語に戻らなくなるので、これは授業が関西弁フラグだ。
「んでなぁ、その紙を入れてほしいんやけど、向きが決まっててなぁ。あのー、この向きで入れて欲しいねん。」
この人の関西弁は無駄にクオリティが高いのでこっちまで影響をうけてまう。どないせえっちゅうねん。
それでは、といわれたとおりに作業を始めた。
暫く適当に三人で世間話をしながら作業をしていたのだが、
「あっ…」
僕の手と鳥海さんの手が触れてしまった。
とそのとき、
「目と目があう、手と手が触れる、そんでもって」
「なんもしませんよ!!」
痺れを切らして鳥海さんが大きな声を出した。
「でも、そんなこと言ってる割には手は触れたままなのね。」
いつの間にか標準語に戻っていたお妙がそんなことを言っている。そういえば確かにまだ手は触れたままだ。尚僕の手が下敷きになっているので動かそうにも動かせない。
鳥海さんが赤面しつつ手をどかした。
「ご、ごめんね。」
僕は別に気にしてないが。
* * *
作業がすべて終了し、八野君に続いて会議室を出ようとすると、妙ちゃんが
「がんばんなよ、優一はね、そういうの全然気づかないから。」
そんな風に囁いてきた。
――ああ、優一…。今度から優一君って呼ぼうかな。優一君って言ったら、もう少し距離、縮まるかな。
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