第七話「電話番号」
鳥海さんの胸をアクシデントで触ってからはや三日。どうやら特に気にしている様子もないようで、時々くすぐりにきている。ただ、こちらから反撃するとまた胸を触りかねないので返していないが。
ところで、そろそろ帰らねばなるまい。鞄に持って帰るものを突っ込み席を立つ。
そうして廊下に出て、それでもってゆっくりと歩いて角を曲がり――
ガンッ!
「痛ったぁ…」
どうやら女子と思しき人間が僕の上にのしかかっているようだ。ゆっくり歩いていたから走ってきたその女子の勢いに負けて僕が後ろに倒れたというわけだ。
痛いという話ならばモロに床に頭を強打した僕のほうなのだが、まあそれはいいとして、
「って、八野くんじゃん!」
鳥海さんだったようだ。僕の太ももあたりに乗ったまま驚愕の表情を浮かべている。ただ、正直な話、乗ってるのはかまわないんだけども、その太ももの場所ってのは一番痛いところだと思うんだ。
鳥海さんは大丈夫なんて言いながら手を這わせてきた。
「ストップ、ストップ、大丈夫だからとりあえず降りてくれるかな。」
なんていうと鳥海さんは素直にどいてくれた。立ち上がるときに地味にスカートの中が見えないでもないが、まあそれは別の話。
「そういえばさ、八野くんってスマホ持ってないの。」
「どの流れからそうなったのかまったく理解できないけど持ってるよ。」
ただし、学校で使うことはまずない。だって、誰とも話さないし。ゲームもスマホよりは家庭用ゲーム機だとかパソコンだとかを使うし。
「電話番号ちょうだい!」
いまどき電話番号なんて普通に使う奴いたのか…。最近だとやっぱり、L○NE交換しようだとか、古くてもメアド教えて、だろうか。あんまり電話ってのは最近使わなくなったものだな。
まあ、僕はいまだに家族との通話はスマホ内臓の電話を使っているし、L○NEに登録されているのだって両親と杉原村田、以上。
余談だがクラスのグループみたいなものにも入っていない。というか誘われていないのだが。あと強いて言うなら体育祭の後の打ち上げとかも行っていない。というか誘われてない。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「いまどき電話番号ってめずらしいね。まあいいけど。」
そういって僕は鞄からスマホを取り出し、自分の電話番号を画面に表示させて鳥海さんに見せた。
「よし覚えた!覚えたけど忘れそうだから、今から言う番号にかけてね。えっとね、×××-××××-××××だね。」
僕はそれに電話をかけて、すぐに切った。
「それが、鳥海さんの?」
「そうだよ!」
そうらしいので僕は黙ってその番号を「鳥海さん」と登録した。
「あーっ!!そうだ!部活に遅れる!着替えなきゃ!」
鳥海さんは急にそう叫ぶと、じゃあね、と一言残して更衣室の方向へ走っていった。
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