第五話「よくわからない鳥海さん」
「ねえねえ、八野君。」
もはや何も言うことはない。
「八野君って一人暮らし?それとも実家?」
最近は個人情報だのプライバシーだの人権だので、よく小学校や中学校で自己紹介カードみたいな感じになっているアレには教師の指示があっても血液型とかを書かなくていい、みたいなのがあるくらいだし、言わなくていいよな。
「それを知ってどうするんだ?」
「いやぁ、一人暮らしだったら押しかけてみようかなって――」
「実家暮らしです。」
たまったもんじゃない。
ふと思ったのだが、押しかけてどうするのだろうか。夜這いか?高校生がそんなことするもんじゃないぞ。って、違うか。なんだろう。どうするつもりだろうか。僕の食事を横取りする?別に僕の食事を取る必要性がないだろう。
――どういうことだってばよ。
鳥海さんは
「なぁんだ、つまんないの~。」
なんて残念そうな顔をして言っているが、本当にあきらめたんだろうな。実家に押しかけてきたりしないだろうな。
今までの行動から推測するとやりかねない。
「そんなこと言ってる鳥海さんはどうなのさ。」
「何!?それを知ってどうする気!?まさか夜這い!?」
それさっき僕が言ったやつな。
「なんでそうなるんだよ。」
それに、鳥海さんに夜這いなんてしてみろ、某イケメンくんにぶっ殺されるぞ。
「ん、知ってどうするのか、夜這いするのか…。あ、鳥海さんは一人暮らしか。」
「な、なんでわかったの!?」
だって実家暮らしだったら夜這いの心配とかしないだろうし。
まあ、家事全般もできそうな見た目してるし、別に問題ないのだろうな。いや、まずそれができなかったら親が承諾しないのかな。
「何考えてるの?」
鳥海さんが顔を覗き込んできた。確かにかわいいとは思う、思うが、恋愛しようとは断じて思わん。
「いや、すごいなぁってね。よくまあ、一人で暮らせるよね。」
そうふとつぶやいたのだが、一瞬、鳥海さんの顔に陰がさした。
「あのね、私、親居ないから…。」
「えっ…。」
これは、地雷を踏んだのではなかろうか。
「ああ!うん!気にしないで!」
そう鳥海さんは取り繕って、全然関係ない方向に話をそらした。ただ、僕と話さないなんていう選択肢はないようだ。なんだこいつ。
「最近暑いね!」
なんていいながら袖をまくり始めた。
わざとらしいことこの上ないが、そこは大した問題ではない。ちらっと腋が見えて興奮しないでもないが、そんなことはどうでもいい。
「ああ、暑いな。」
適当に受け流しておこう。
電車というのは何故か中間部が混みやすい。だから僕は意識して前の方か後ろの方に乗るようにしているのだが、大体昼間は先頭車両に乗ると前が見れて面白いので先頭に乗ることにしている。
運転手がレバーを引いたり倒したりしているが、そこはどうでもいい。問題は先ほど歩いていたときに見えた鳥海さんらしき人物だ。まさか本当につけてくるのだろうか。
――いや、自意識過剰か。別にこっちの方向に家があるのかもしれないし、こっちのほうに住んでいる人に用事があるのかもしれない。そもそも、鳥海さんでないかもしれない。
「まもなく――」
そろそろ降りる準備をせねばなるまい。
徐々に電車が発する音が低くなっていき、終いになんか形容し難いようわからん高めな音が出て、電車が完全に止まった。
プシュー。
ドアが開いて、電車を降りると見慣れた風景が当然広がっているわけだが、なんか、居る。めっちゃこっち見てる。柱の影から様子を伺っている。
どう見ても鳥海さんなのだが…いや、逆に鳥海さん以外だったらホラーである。
「何をしてるのか詳しく。」
「えーっとそのー、一目八野君の家を拝みたいなぁなんて思って。」
「ストーカーって言うんですよ。」
いったい何がしたいんだろうか鳥海さんは。僕の家なんて知ってどうする気なのやら…。
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