第三話「理由が見当たらない。」
「ねぇねぇ」
という言葉を何回聞いただろうか。いっそ落語でも聞いていたい。
丁後ろから無造作に聞こえてくるそんな言葉にいい加減うんざりしてきたころ、杉原が寄ってきて
「おい、ちょっと来いよ。面白いもんが見れるぜ。」
なんて言って、僕の手を引っ張っていく。
「まってまってこれじゃホモみたいだから」
僕はホモじゃなくノンケだ。当たり前だよ…なんでもない。
そのまま男子数名(村田含む)も参加し、屋上へ連れて行かれる。
鍵が開いているが、前に確認してみたら開いていなかった。ということは、誰かが開けたということだろう。
「よし優一以下数名この裏で隠れろ!」
「なんだその言い回しなんで僕が筆頭なんだ。」
そういってみるもいいからいいから、なんて杉原は僕たちを押して階段が出っ張っている裏に入れた。
「おい、こんなにぎゅうぎゅうなら女子も誘っとけよ、ホラ。」
男子の一名がそんなことを言っていたが、
「それはまあ、いいんだよ。これから見れるもんはそんなに大人数誘うと面倒なんだよ。」
なんて一蹴されていた。
暫くそんなホモが喜びそうな男子ぎゅうぎゅう詰めで待機していたところ、一人のイケメン男子、如何にも陽キャ然としている奴が屋上にやってきた。そして暫く暇を持て余してブラブラしたあと、
――ガチャリ。
閉じていた扉が開き、そこから女子が出てきた。
「んー、何か?」
そういったのは、鳥海さんだ。
「こんなところに呼び出して悪いね、実は大切な話があるんだ。」
イケメン野郎はそう切り出した。屋上で、(一応)二人っきりで、大切な話と来たらもうこれはアレでしょうアレ。
「大切な話…?」
「そう、大切な話だ。あの、俺は、俺は――」
隠れて聞いていた僕たちは皆息を飲んだ。
「――みゆきさんが好きだ!付き合ってくれ!!」
行ったああああああああ!こういうの見るのって結構ハラハラするんだな。
あちらでは沈黙が続くなか、僕たちは互いに目を見合わせて指をさしたりなんなり、無言で騒いでいる。
「ご、ごめんなさいッ!」
鳥海さんが沈黙を破りそう叫んで、走り去っていった。
僕らは自然と顔を見合わせて、手を左右に挙げてみたりなんなりしてみた。
すると、イケメン男子がしょんぼりとした表情でこちらに歩いてきた。僕らの居る場所を覗いて、半泣きになりながら手招きをした。
そのあと何があったかと言うと、何故かほぼ面識の無い僕まで参加させられての自棄食い大会だった。焼肉の自棄食いとはまた金がかかりそうだが、食べないと割りに会わないので僕もちょこちょこ肉を食べながらイケメン男子の愚痴やらなんやらを聞いていた。
男子たちは、
「なんでみゆきの奴こんなにイケメンなのに振るんだよ。」
だの、
「みゆきは人を見る目がないのかなぁ。」
見る目がないのは確かだな。
「ったく、あんなんじゃ一生彼氏できねぇだろうな。」
なんて言いたい放題言っていた。
そんな感じで話していたが、断る理由は見当たらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます