二年生
第一話「前の席」
新学期、というよりは新年度が始まる。そろそろ一人の生活にも慣れてきたし、なかなかにいい感じなのではなかろうか。
そういえば、新学期と言えばクラス替えである。無い学校もあるが、我が校はそれがある。ということはつまり、環境を再構築せねばならないということだ。面倒極まりないが、まあ致し方あるまい。
なんだかんだ言っても、黙ってればきっと誰も寄ってはきまい。
新クラスの名簿を見てみると、なんとまあ「鳥海みゆき」なんて書いてあるもんだから困ったものだ。
いや、別に鳥海さんが居るのは別に構わないんだが、僕に一人の空間というかそういうアレを提供してくれるだろうか…?
「よーし、全員いるな。まだ始業式までは時間があるから、先に席替えをやってしまおう。」
朝のホームルームが終わり、一時限目が始まったとき、担任がそんなことを言い出した。
「くじ引きでいいな。よーし、端から引いてけ。」
僕は最後のほうなので、あまり選ぶって感じではないが、まあ、運に身を任せる。さあ、僕の番だ。
箱の中に入った紙を一枚取り出し――
どうしてこうなった。
僕は見事に鳥海さんの後ろの席を引いた。さっそく、鳥海さんは後ろを向いて僕に話しかけてくる。
適当にあしらったら、この間買った本を読もう。前から気になってはいたのだが、全然書店で見つけられず、最近漸く見つけることができたので買った次第だ。
「ねぇねぇ八野君、彼女、とか、居るの?」
おうおうおう、いきなり踏み込んだ質問をするな。野郎共、コイツを叩ききっちまえ。
って違う、そういうのではない。
「僕みたいなぼっちにどうしたら彼女ができるのか教えてほしい。」
なんて返しておけば完璧だろう。僕も聞きたい。
まあ、言わずもがな僕に彼女なんてできたためしはない。
「え、じゃあじゃあ好きな人は?」
「残念ながらそれもいないんですよ。だって人と関わらないんですもの、好きになりようがない。」
我ながら悲しくなってくるが、そんなことはどうでもいいのだ。
――それに、恋愛は絶対にしない、と心に決めている。仮にしたとしても、絶対に絶対に人には言わない。言ってもいいことないのじゃなかろうか。
中学の頃見ていた恋愛と言えば、手をつないで一緒に帰るだの、なんとまあお淑やかな恋だろうか。そしてその恋を邪魔、冷やかす輩は絶対居るのだ。
だいたい、みんなどこからその二人が付き合ってるなんて情報を手に入れてるんだろうか。
閑話休題。
そんなわけの分からない物思いに耽っていると、
「ねぇねぇ八野君」
なんてやっぱり鳥海さんは話しかけてくる。他にも沢山話す人は居るだろうに…。
こんなので誰かに疎まれたりしないだろうか。噂によると、と言いたいところだが、噂なんて聞く人が居ないので、まあ、聞こえてきた話なのだが、鳥海さんは人気らしい。
まあ、かわいくてそれなりに勉強もできて運動までできるってんだから人気でしょうけども。
――とはいえ、僕には関係ないことだ。気にせず本を読もう。
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