第二話「妙に見かける鳥海さん」
ここのところ、やけに鳥海さんをよく見る。授業が終わり教室で本を読んでいるとき、ふと教室のドアの方を見ると鳥海さんが立っている。トイレから出ると鳥海さんが前を通りかかる。自動販売機で飲み物を買うと、鳥海さんが真横の自動販売機で飲み物を買う。
どう考えても、偶然ではない。ある種の恐怖さえも覚えるほどである。あまり気にしすぎても仕方ないとはわかっているのだが、それでも気になるものは、気になるというものである。
「おーい八野、暇ならちょっと手伝ってくれないか」
初老の理科教師から声をかけられた。授業でも発言をしたこともないし、担任でもないのになんでこの理科教師が僕の名前を覚えているのか。それは最初の授業の話である。とても難しいと言われる実験を一発で成功させてしまったのだ。あくまでただの偶然で、僕は言われた通りの手順で進めただけ。一人で黙々やっていたから、クラスメイトたちは誰一人として僕が勝手に成功させていることになんて気づかなかったが。
化学実験室の水平な机、その上には大量の汚れた試験管がバットの中に入れられたまま置いてあった。
「この間の実験で使ったんだが、洗うのが面倒くさい。そして俺はこれから会議だ」
「僕にやれと?」
「飲み込みが早いな、流石は八野だ」
「いや、ありがとう。助かったよ。こりゃとてもじゃないが次の授業までに洗いきれない」
「まあ、暇ですからね、僕は。それじゃこれで」
放課後、それも化学実験室の前なんて辺鄙なところには人は誰も居なかった。廊下の突き当りの窓が開いていて、外から運動部の活動する声が聞こえてくるものの、近くからは一切声もしない。
うちの学校は、なぜか玄関を出たすぐの左右に植物が植えられている。噂によると、夏場は無視がすごいらしい。
しかも、どう見ても手入れがされていない。剪定なんてアホらしいと言わんばかりに伸び放題になっている。
それこそ、人に見られないように待つには、もってこいのような――
厭な予感がした。
流石にそれは、無いだろうと思う。今少し揺れたこの茂みに、誰かが隠れているだとか、そんなわけがない。
しかし一度疑念を持つと案外にこれが払拭できない。
好奇心に負けた僕の腕は茂みに手をかけ、そして枝を左右に分けた。
「あっ、えっ、あっ、八野くん、こんにちは?」
鳥海さんが居た。しかも驚いて尻もちをついたのか、めちゃめちゃパンツが見えている。
アホらしくなった。
「何してんの」
「いやー、ちょっと小銭を落としちゃって」
「茂みの中に入る必要性はないでしょ」
「そういう気分だったから……」
「なんだ、そういう気分って……」
もう、ため息しか出ない。
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