炙山ヨモギは動じない

 アニスの母の炙山ヨモギは、株やら通貨取引やらなにやらで、それはもう大層な大金持ちらしく、総資産で言えば、世界でも上から数えて数えられるくらい、というほどらしい。

 彼女は、コロッケ好きのよく笑う女性……というか笑顔以外の表情を知らないのでは? と思える人で、炙山父が起こした騒動や宇宙に帰る計画を聞いても、「それは大変だったのね!」としか言わずにニコニコしていた。やはりアニスの母親だけあって、どこかが微妙にずれている。


 で、例の事件の顛末であるが……空那達の町は、局地的に地磁気が乱れて電子機器を狂わせた挙句、自然公園の中央にはデッカい穴がポッカリと開き、地下から意識を混濁させる一過性のガスが発生し、同時に竜巻が通り過ぎ、ついでに動物達がパニックを起こしてそこら中を引っかき回した事になった。


 いやはや……とんでもねー大災害があったものである!

 そんでもって、それらの被害にあった方々には、迷惑金としてヨモギから相応の『マネー』が渡される事になった。

 結局、金で解決できる問題は金で、隠蔽いんぺいできる事件は隠蔽で、と言う事である。

 それが一番平和的解決方法なのだから、仕方がない。

 もちろん、空那達に取っての……と言う意味であるが。


 ヨモギの口座からは、保険の特別約款やっかんによる保障と言う名目だったり、あるいは秘密裏に特別手当や見舞金として給料に加算されたりして、町の被害者の元へと届けられた。

 炙山父は、数十年前からこの手の操作はよくしているらしく、できるだけ波風の立たない方法で、十分な額を配分したと主張している。


 ちなみに自然公園の穴は、工事によって急ピッチで埋め戻され、今度はそこに、『天体観測施設』ができるそうだ。こんな都市部に天体観測なんて、いかにもおかしな話なのだが……?

 しかし、『設計図にそう指示されてる』から作るんだと。

 まあ、きっとそこで、星を見たい『誰か』がいたのだろう。


 街中の監視カメラの記録媒体も、強い磁気や電磁波の影響で、ほとんどが消えていた(……ということにされた)。ごく一部に、妙な鎧が怪物と組み合う姿や、日本刀を振り回す女の子の姿が記録されていた、なんて噂もあったが……CGで作られたフェイク扱いされて、ニュースにもならなかった。


 そのようにして、なんとか落着を見せた、今回の事件。

 中には金銭では換えられない物や、人生が変わった人間もたくさんいるだろう。

 たとえば、町の役所から外部委託を受けていた『超常自然現象対策予知ニギミタマ』だのという、なんだか妙な長ったらしい名前のうさんくさーい国際機関が、災害を予見できなかった責任を取らされたらしい。

 いやあー、それはマジで気の毒なことだと思うっ!

 だが、そこは文字通りに、『超常的自然災害な不幸』に出くわしたと思って、なんとか辛抱して欲しいと、空那は願う。


 本当に、とってもとっても不幸な話ではあるが……部品にされてお宇宙そらに飛んで行っちゃうよりいいでしょ、と!

 そして、あの事件から二週間後……。

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