望まない結婚を強いる両親から逃れるため、聖騎士への入団試験に挑み、見事に合格を果たした貴族の少女ラシェル。けれどもラシェルが入団したのは剣や魔法で戦うのではなく、楽器演奏を専門にする風変わりな弱小部隊だった。思い描いていた仕事とはまったく違う音楽漬けの新生活に戸惑いながらも与えられた任務に奮闘する姿に勇気づけられました。
物語の舞台は空に浮かぶ大陸エンデ。大神殿には女神様がいて人々を見守っているという異世界ファンタジーの世界で、結婚して家庭に入るよりも自立を目指すラシュルの現代の女性らしい感性が新鮮です。
聖騎士といえば女神に仕え、剣術や武術の腕を振るって民を守るものというのが常識なのに、音楽で悪人や魔獣を改心させるという奇想天外な理想を掲げる音楽バカな団長アルベルト、クールで厳しい副団長サイラス、おまけにオネエ系な音楽講師と、ハンサムだが個性的な人々に振り回されながらも音楽と向き合って、次第に自分の仕事に誇りを持っていくラシュルの一途な実直さが初々しい。
より良い合奏をするには、お互いに信頼関係を築かなければと、変わり者の先輩たちとのコミュニケーションに苦心するところは、現代の新人社員のようで親しみがわきます。
世間でも、まさにこの時期、部署に配属され始めた社会人一年目の方も多いのではないでしょうか。「こんな仕事とは思わなかった」、「上司と意見があわない」など、仕事で悩みを抱える人に是非読んで欲しい作品です。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)