第25話 騎士の在り方②
思わず口元を抑えて絶句したラシェルに、サイラスは「その時に副団長であったのが、現団長であるハンクロード・ランディスなわけだが」と付け加えてから、言葉を続けた。
「リューク・エクセレイアはもともと士官学校に所属していたが、先代の引退と入れ替わるようにして聖騎士となり、神殿近衛騎士団に入ったらしい。女ながらにあまりにも勇ましく、かつての『紫電の槍騎士』を彷彿とさせる姿に、当時は話題になったものだ」
確かに、リュークの凛々しくも麗しい姿は、良くも悪くも目を引く。
「リュークさんは、あえて男性の格好をなさっているようですが……どうしてなんでしょう。今は女騎士が活躍してもおかしくはない時代なのに、不思議に思ってしまいまして」
「エクセレイア家には、女児しか生まれなかったらしい。先代は、まさに男らしさを尊ぶ、古くからの騎士であったからな……男児を望んでいた可能性が高い。その長女が跡継ぎとして、まるで男児さながらに育てられたのだとしたら、その心にかかる負担はどれほどのものだっただろうな」
サイラスの言葉は、ラシェルの心にすとんと入って来た。もしそうならば、リュークの他者とは少し変わった在り方にも納得がいく。
「直接会話したこともない以上、憶測に過ぎんが。お前が感じた通り、リューク・エクセレイアにも何らかの葛藤があるのかもしれんな」
「もしそうだとしたら……私とリュークさんは似ているのかもしれませんね。私も、家の期待に縛られて、何とか逃げ出したいと思っていましたから」
「ああ。だが、お前は実際に自ら道を切り開いて、今ここに居る。だが、リューク・エクセレイアは清廉潔白な騎士であるからこそ、もしかすると自らが何に縛られているのかさえ、気付いていないのかもしれない」
いや、もしかすると、気付かないようにしているのかもしれない。
『お前達は自由で良いな』
リュークが不意に呟いたあの言葉は、そんな彼女の心の底から出た、小さな本音だったのだろうか。
(きっとリュークさんは、高潔であるべき自分の立場を重んじるからこそ、迷いすら見せてはいけないと思っているのかもしれない……)
そして自分は、知り合って間もない彼女の抱えるものを想って、何だか放っておけないような、そんな気持ちになってしまっているのかもしれない。
そんなラシェルの心中を読み取ったのか、サイラスが言葉を続けた。
「お前のことだ。何とかしてあげたいと思ったのかもしれないが、やめておけ。リューク・エクセレイアがそれを望んでいるわけでもなく、余計なおせっかいは彼女の誇りを傷つけることにもなりかねん」
「は、はい……。確かに。そうかもしれません……」
(サイラスさんの指摘は的を得ている……)
知り合ったばかりの下級騎士に心配されて、リュークが喜ぶはずもないだろう。
そもそも、そのことをリュークに話す勇気も無い。
「本当に、その通りですね。どんな葛藤があろうとも、リュークさんは聖騎士としての信念を貫きながら立派に勤めてらっしゃるんだから、私が勝手に余計な心配をするなんて、失礼でしかないですよね」
むしろ、一本筋が通った信念が足りてないのは自分の方だ。
アルベルトの信念についていくと言いながらも、何だかんだでまだまだ周囲の目を気にしてしまっている。
その点で言うならば、ザックの方が余程ぶれていないのだろう。
そう思うと、自ずとため息が漏れ出た。
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