第26話 騎士の在り方③
「サイラスさん、話を聞いて下さってありがとうございました。私って、時々こうして一人で悶々と考えてしまうことがあって……。そして、私も皆さんみたいに、もっとしっかりとした意志を持った、心身ともに強い騎士にならないといけないなあと改めて感じました」
するとそれに対して、サイラスが僅かに語気を和らげて言った。
「努力するのはいいが、無理をする必要は無い。人には人のペースというものがあるからな」
サイラスは「それに……」と言葉を続けた。
「さっきも言ったが、お前はしがらみから逃れるべく、自ら道を切り開いた。それは、大きな労力を必要とすることだ。そういう意味で、俺はお前を評価している。だから、他の騎士に気後れする必要はない」
「サイラスさん……」
「何事も精一杯努力しようとするのはお前の良い所だが、頑張り過ぎると気疲れするだろう。焦る必要は無い」
いつも厳しく叱咤激励してくれるサイラスからの意外な評価に、思わず目を見開いてしまった。
サイラスは、ちゃんと自分を見てくれていた。――そのことが嬉しくて、ラシェルは思わず赤面しそうになる顔を隠すべく、慌ててサイラスから視線を外した。
「あ、ありがとうございます……! そ、その……そんな風に言って頂けるなんて、嬉しいです。てっきり、その……もっと努力しろ! って言われるんだと思っていたので……」
「なんだと? 俺はそんなに鬼教官か?」
「は、はあ……どちらかと言うと……」
「そう言う時だけははっきりと意見を言うんだな、お前は」
サイラスから軽く小突かれ、ラシェルは「すっすいません!」と慌てて頭を下げた。
だがサイラスは特に怒っている様子は無く、少し考え込むようにした。
「ふむ……そうなると、今度の晩餐会では、もう少し優しく振る舞うべきなのかもしれんな。鬼教官ではなく、一応婚約者として参加するわけだからな」
その言葉に、ラシェルは一瞬固まった。
「は……はい?」
サイラスは一体何を言っているのだろう。
呆然としているラシェルに、サイラスは首を傾げながら言った。
「そっちにはまだ連絡が来ていなかったのか? 昨晩、お前の父君から、晩餐会への招待状が届いてな」
「お、お父様から!?」
「ああ。元婚約者も出席するとのことだ。お前に未練がある可能性もあるからな。しっかりと諦めさせるためにも、二人で仲良く出席するようにと書かれてあったぞ」
「え……え……」
サイラスから初めて聞かされた内容を理解するまでにしばらくの時間を要したが、
「えええええええええええええええええええ!?」
やがて、防音設備が整っている訓練室からさえも漏れ出てしまうのでないかと思われるほどのラシェルの絶叫が、その場に響き渡るのだった――。
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