第24話 騎士の在り方①
翌日。
空高くに浮かぶ大陸エンデの朝は今日も快晴で、どこまでも広がる空の青さが美しい。
だというのに、ラシェルの気持ちは何故か晴れなかった。
いつものように出仕したものの、はあ……とため息が出てしまう。
(私ったら、何でこんなにもやもやしているんだろう)
悶々とした気持ちのまま訓練室に入り、ハープの調律に取り掛かっていると、突然声がかかって来た。
「朝から浮かない顔をしているな。一体どうした?」
慌てて俯きかけていた顔を上げると、そこにはサイラスがいた。
「あ、す、すいません。私ったら、また顔に出てしまっていましたか……?」
また注意されるだろうかと身構えたが、サイラスから出た言葉は意外なものだった。
「ああ。だが、謝る必要は無い。任務の場においてならともかく、今は感情を抑え込む必要もないだろう。……むしろ、何か悩みごとでもあるならば、聞くが?」
「えっ?」
サイラスからの申し出に驚いて、ラシェルは思わず声を上げてしまった。
「そ、相談に乗って下さる……ということですか?」
「内容によっては、な。だが、話をするだけでも気持ちが軽くなるということもあるだろう。団員達の情緒面を把握するのも、副団長の仕事の一つだ」
物言いはいつも通りのクールなサイラスだが、どこか気を使ってくれているというのが伝わってくる。
その気持ちが嬉しくて、ラシェルは少しずつ、自分の中の感情を整理するように言葉にすることにした。
「……昨日、神殿近衛騎士団の副団長さんとお知り合いになったんです」
「ふむ。リューク・エクセレイアか」
サイラスならば当然彼女の名は知っているだろう。ラシェルは頷いた。
「はい。その時に、音楽で戦うということについて、現実的ではない、まだ確実な戦法ではないという話になって……」
「それが許せなかったか?」
そう問われて、ラシェルは黙り込んだ。
確かに、リュークに自分達のしようとしていることを、否定はされなかったものの肯定もされず、むしろ疑念を投げかけられて、納得いかない気持ちになった。
(でも、私がもやもやしている理由って、それだけ……?)
思い出されるのは、別れ際のリュークの顔だ。
「いえ、何というか……リュークさんに、どこか、迷いがあるように見えてしまって……」
「迷い? あのような完成された騎士にか?」
ラシェルはうんうんと頷いた。
「リュークさんは本当に、高潔で立派な騎士で……きっと、私がこの騎士団に入団する前に目指していた、女騎士としての理想の姿なんだと思うんです。でも、だからこそ、リュークさんの中に燻っている、何か……迷いみたいなものが、見えたような気がしてしまっって」
サイラスは「ふむ」と僅かの間考え込むと、いつも通りの冷静な声音で言葉を紡いだ。
「ラシェル。リューク・エクセレイアの出自を知っているか?」
「え? いえ……確か、エクセレイア家が代々高名な騎士を輩出している貴族だということくらいしか……。そして、お父様が神聖近衛騎士団の前団長だった、とも言っていたような」
「そうだ。先代のグレック・エクセレイアは稀代の名騎士で、『紫電の槍騎士』と呼ばれ畏怖されたほどの槍の使い手だった。だが……ある時、魔獣討伐の際に利き腕を失い、騎士としての生命が断たれることになってしまった」
「ええ!? そ、そんな……」
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