第15話 初指令③

「僕の担当は、指揮だよ!」


 サイラスの言葉に続くようにしてそう言ったのは、奥の部屋から戻って来たばかりのアルベルトだった。


「このタクトを使ってね」


 アルベルトは懐から細長い棒状の物体を取り出し、ラシェルの前へと差し出した。

白銀色のその指揮棒(タクト)は、アルベルトの手の中で、ほのかに白い光を放っているように見えた。


「変わった素材ですね」

「ああ。このタクトは、双女神――ラ・レティス、リ・レティスから賜ったんだ」

「え……えええええええ!?」


 突然の告白に、ラシェルは今再び驚愕の叫び声を上げた。


「め……女神の!? ど、どういうことですか!? そんなことって!」

「詳しいことは追々話すつもりだけど……真実だよ。つまり、聖なる音色を奏でし騎士団の設立は、女神の啓示でもあるんだ。だから、誰が何と言おうとも、僕は音楽の力を信じているんだよ」


 軽くウィンクをするアルベルトの手の中で、タクトが煌めいた。

 時に虹色のようにも見えるその輝きは、それがただの指揮棒ではないことを示している。

 これが女神の賜り物と言われると、確かにそう見えなくもない気がしてくる。


(でも、だけど……本当に至高の双女神が、この団長に啓示を……!?)


 にわかには信じがたい。

 けれど、この人一倍浮世離れしたアルベルトなら、あり得ない話でもないのかもしれない。


(そういえばさっきの統括部長も、聖殿側がこの騎士団の設立を後押ししたって言ってたような……)


 その辺りにも何か事情があるのかもしれない。


(ついでに、御子息がどうとかも言っていたけど……この団長と副団長って、一体何者なんだろう)


 詳しいことを聞きたいところだったが、目の前の二人は次なる話題へと移ってしまっていた。


「さて、僕達は今から、明日から始まる任務の準備に入るよ。地上に降りるための手続きとかもしなくてはならないからね。サイラス」

「ああ、分かっている。手配は任せておけ」

「頼もしいね」


 アルベルトは満足げに微笑むと、今度はラシェルの方に向き直った。


「そういうことで、ラシェル君。いきなりですまないが、明日から任務に出動することになる。君はとにかく、課題曲の通し練習をしておいてくれ。合わせ練習をする暇が無いのは申し訳ないが、それについてのフォローは実地で行うから安心してくれまえ」

「は、はあ……」

「あとそれから、実戦では立ったまま演奏することになるから、その練習もしておいてくれると助かるよ。期待しているよ!」

「ど、努力してみます……」


 もはやこうなっては、後に引くわけにもいかない。

 やる気満々の団長と、冷静沈着な副団長を信じてついていくしかない。


(何はともあれ、今私に出来ることは……練習しかない……!)


 悩んでいる暇はない、とばかりに、ラシェルは訓練室――もとい、練習室へと向かった。

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