第2話 波乱の幕開け②
「あっ……は、はいっ」
急に立ち上がってそう答えたせいで、声が上ずってしまった気がする。
周りの男達から、嘲笑ともとれる笑い声が聞こえる。
一瞬怯みそうになったが、ラシェルは彼らを振り返ることなく、部屋に向かって歩き始めた。
(ここまで来たんだから、後には退けない。なら、やれるだけのことをやるしかない……!)
勇み足で入室したため、多少蟹股になってしまったかもしれない。
「ラシェル・ハルフェロイスと申します。よ、宜しくお願いします」
部屋の中の面接官に伝わるようにと声を張り上げたが、はっと我に返って室内を見渡してみると、中には応接セットがあり、そこに男性二人が座っているだけだった。
(あれ、意外と面接官が少ない……。それに、若い……)
きょとんとしているラシェルに、面接官の片方がにこりと微笑みかけてきた。
「ラシェル君、ようこそ。僕の名はアルベルト・レイターバーグ。この騎士団の団長だ」
太陽のように明るい金髪と、湖のように済んだ青い瞳を持つ、見目麗しい男性の笑顔は輝かんばかりで、ラシェルはどきりとしてしまった。
(うわ……凄く明るい笑い方をする人だなあ……)
その場に居るだけで周囲を照らすような空気を纏う男性に、思わず見とれてしまう。
思わずぼうっとしていたラシェルに、アルベルトは爽やかかつ穏やかな声音で言葉をかけてきた。
「そしてこちらが、副団長のサイラス・フライト。我が騎士団はまだ結成したばかりで、人手不足でね。僕達が面接をさせてもらうよ」
すると、長い濃紺色の髪を後頭部で一つにまとめた黒い瞳を持つ、アルベルトとは対照的な物静かで知的な雰囲気を纏う男性――サイラスが、手元の資料を見ながら言った。
「ハルフェロイス……聞いたことがある名前だな。確か、貴族の名家の一つだったような気がするが」
「あ、はい。そうは言っても、すでに力の無い弱小貴族ですが」
慌ててそう答えたラシェルに、アルベルトが「ふむふむ」と頷く。
「貴族のご令嬢が騎士団に入ろうと考えるなんて、大した覚悟じゃないか。ご家族に反対はされなかったかい?」
「それは、その……確かに反対されました。けれど、私の生き方を決めるのは私自身だと思っています」
自身の後ろめたさを隠すことなく告げた上で、はっきりと言い切った。
「私は、女神を守り、そしてひいては人々を守る、そんな聖騎士という誇り高い職業に憧れ、ここに来ました。もし可能ならば、その末席に加えて頂きたいと思っております」
真っ直ぐに前を見ながら志望動機を述べたラシェルに、アルベルトが感心したように微笑んだ。
「なるほど。確かに君の言う通りだね。その意志の強さ……素晴らしいよ」
「あ、ありがとうございます」
(何とか、第一印象は良い方向に持っていけたかもしれない……)
内心で安堵するが、問題はこれからだ。
(次は何を聞かれるんだろう。もしかして、実技披露かな? やっぱり騎士団なんだから、武術は必須だろうし……)
待合所で見た限りでは、武術という点では、他の応募者には敵わないだろう。
そう考えると、再び不安な気持ちが押し寄せて来る。
思わず身構えたラシェルに、アルベルトがふと思いついたように言った。
「ところで一つ聞くけど、武術以外で、何か趣味や習い事などはしたことはあるのかな?」
「……えっ?」
想定外の質問に面食らい、思わず素っ頓狂な声を上げてしまったが、ラシェルは慌てて体勢を取り戻した。
「え、えーっと、そうですね……。最近は積極的に武術の訓練に時間を使うようにしていましたので、ゆとりはありませんでしたが……以前は竪琴(ハープ)を学んでいました」
「竪琴? 珍しいね」
「自宅に、亡くなった祖母が使っていたグランドハープがありましたので、興味を持って……。といっても、私が使っていたのは練習用の小型のハープでしたけど……」
「ふむ……なるほど」
(何でこんなことを聞くんだろう?)
不思議に思って首を傾げそうになったラシェルの前で、アルベルトは何かを考え込んでいたかと思うと、ぽんっと手を打ったアルベルトは勢いよく立ち上がった。
「よし、決めたよ。君を採用しよう!」
「え……ええええっ⁉」
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