第12話
十二
宿の前の小道でレモンさんとチャッキーさんに会った。遅れた事情を簡単に説明したあと、自分達が泊まっている宿の、小道をはさんだ向かいの宿は空いていると教えてくれた。
バイクを停めて、四人で向かいのバンガローへ歩いた。
「値段のわりに好(よ)い部屋ですね」
しんご君が部屋の中を見まわしながら言った。盗難のあった部屋よりも狭いが、トイレとシャワーがついていて、大型のファンもついていた。
「でしょ? わたし達がんばったのよ、ねえ、チャッキー?」レモンさんは肌の白い、愛らしい顔で言った。
「そうなんだ、もう、足が棒のようだよ」チャッキーさんが野太い笑い声をあげて言う。
「うそですよ! 宿の目の前じゃないですか! 百メートルぐらいしか離れていないじゃないですか!」僕は顔をにやつかせ、元気よく言った。
「あら、なにを言うの、わたし達ちゃんと探したのよ。空いている宿がたまたま此処(ここ)だっただけよ、ねえチャッキー」レモンさんはしゃがれた声を間伸びさせて言う。
「そうだよ、数軒見てまわったけど、たまたま此処が一番好かったんだ」チャッキーさんは言った。
「そうですか、ぼくはてっきり......」
「ありがとうございます、文句なしの部屋ですよ」しんご君はうれしそうに言った。
「そう? ならよかったわ」レモンさんもうれしそうに言う。
「しんご君はこのあとどうするんだい?」チャッキーさんが訊ねる。
「いろいろやることがあるので、まずは日本大使館に連絡しようと思います。そのあと、ネットカフェに行ってから、“島”の警察署へ行こうと思います。交番は役に立たなかったので」
「それなら、ぼくが運転して連れて行くよ」僕は言った。
「いや、大丈夫です。せっかくですが、もう一人で行動できる範囲のことですから、みなさんにこれ以上迷惑かけられません」しんご君は申し訳なさそうに眼を細める。
「そっか、それならいいんだけど、でも、警察署はここから離れているんじゃない?」僕は言った。
「はい、でも大丈夫です。なんとかして行きますから、みなさんは気にせず行動してください」
「でも、せっかくバイクがあるんだから、レモンさん、このバイク、しんご君が使ってもいいですよね?」僕はレモンさんを向いて、あたりまえのように言った。
「もちろんよ」レモンさんは言った。
「チャッキーさんは?」僕はチャッキーさんの顔を見た。
「ぼくもいいと思うよ」チャッキーさんはやさしい口調で言った。
「なら、バイクを使って移動しなよ」
「えっ? いいんですか? でも」しんご君はさらに申し訳なさそうに顔をしかめる。
「いいのよ、困った時はおたがいさまじゃない」レモンさんが言う。
「そうですか、すごいたすかります。本当にありがとうございます」しんご君は頭を深く下げた。
「さて、わたし達はどうしましょうか?」レモンさんは明るい調子で言った。
「ぼく、水着を持ってないんですよ。水着を買いに行きたいです」僕は早く海に入りたかった。
「じゃあ、買い物にでも行きましょう!」
「そうしましょう!」
「チャッキーは?」
「ついて行くよ」チャッキーさんは言った。
「しんご君、わたし達買い物に行くから。早めに戻ってきたら雑貨屋が並ぶ通りを探してちょうだい。もし、見つからないようだったら、わたし達の宿に来てね」
「わかりました、ありがとうございます」しんご君は言った。
「はい、これ鍵だから、気をつけてね」僕はバイクの鍵を渡した。
「じゃあ、またあとでね!」
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