第七章 終わりと始まり 2
彼方へ飛び去るシャトルを見て、昔のことを思い出してしまった。
あの日、唐突に訪れた終わり。その先を見るために、私は走り続けてきたのだと思う。
長い、長い時を走った。長すぎて、どれくらい走ったのかすら忘れてしまった。
人の体では耐えきれないような長い時間を走ったので、私の体の大半は、生来のものではなくなっている。後天的に移し替えた人工関節や、人造臓器ばかりだ。そんなものをとっかえひっかえして、思考の熱量を保ったまま、私はここまで走ることができた。
シャトルはもう見えない。シャトルが残した噴煙、それが薄い雲のようになり、風に吹かれて散っていく。
そんな様子を見て、私はぽつりと思う。あの計画は、失敗するはずだろう、と。
そりゃあ、そうだろう。残っている人類の記録と叡智を詰めに詰め込んで、それを宇宙に流して誰かに拾ってもらおうなんて、都合が良すぎる。
自分の願望を追い続けた私が、そんなことを無慈悲に思う。他人事に割く情なんてものは、長い年月で全て失っていた。
きっと人類最後の希望はその途中で潰え、そして私を取り巻く世界もいつしか終焉を迎えるだろう。
終焉。私の人生にずっと立ちはだかってきたそれを、ぽつりと呟いてみる。ぎしりと、人工関節が軋んで苦笑した。
終焉の先を見ること。私が望んだそれは、たとえ私が見ることができなくても、私の思考系統を受け継いだ“あの子”が、見てくれるようになっている。
そうなるように、私は仕組んでやった。人類最後の希望を、勝手に私的利用してやったのだ。莫大な金と労力の結晶を、プロジェクトリーダーだからということで、自分のものにしてやったのだ。
よく知らない偉い人や外野の有象無象が、プロジェクトについて適当に好き勝手言いやがったので、こっちも好き勝手やってやったというわけだ。ざまあみろ、と思う。
わっはっは、と笑ってみた。関節がまたも軋んだ。
さて、あの子が住む、あの世界に話題を移そう。
あの子は、あの世界を彷徨うだろう。……私は神ではないので、あの子の運命を勝手に織りなそうとは思わない。あの子が、あの世界で誰と出会い、どのような感情を抱くかは、あの子の自由だ。
しかし、私はそんなことを思いつつ、あの子があの世界で出会う大切な誰かは、きっと白川に似ていると、あるいは白川本人だと、確信していた。
そんな思考に至る材料はない。仕組みもない。
それは願望にも似ているが、しかし私の中においてはまごうことなき真実だ。
終焉の先に、私は辿り着いてやった。そう思い、強く拳を握る。
「……さて、と」
そう独り言ちて、空から視線を外し、地平に向ける。荒涼とした光景が、どこまでも広がっていた。
この星は枯れ果てていた。
しかし、私はまだ戦うのを止めてはいない。大昔に抱いた願いを、未だに持ち続けている。その願いが、熱となり私を動かす。
この世界――、私と白川が生きた世界が、崩れ落ちて終わりを迎えるその日まで、私は走り続ける。
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