第14話 副頭首

 気がつくと、自分の部屋のベッドの上にいた。窓からは朝の光がさしこんでいる。しばらくそこに座って昨日のことを思い出していた。でも、勝負の勝敗がわからない。目を細めて拳で頭をこんこん軽く叩きながら考えていると、部屋のドアが開く音がした。


「結衣、起きてるか?」


 声で誰が来たのかすぐにわかった。ドアをしめて振り返った総司と目が合う。


「起きていたのか。」


「うん。」


 優しく返事をする。総司が私のとなりに座ると、こっちを向いて言った。


「ところで結衣、とてもかわいらしい下着を着てるな。」


 そんなことを真顔で言われ、下を向くと初めて自分の格好に気づいた。水色でふりふりのついたブラとショーツを着ているだけだった。顔を赤くして、あわてて手で隠す。それを見た総司は


「ふっ、そうするとなんか逆にエロくなるな。別に結衣は俺の嫁なんだから隠さなくてもいいだろ。」


 笑いながら言った。それに対して


「もうっ。」


 とそっぽをむいた。そしたら、総司は私を押し倒してきた。手をおさえられ、逃げられない。心臓の音が速くなる。総司に気づかれないように目をそらそうとすると、唇に感触がきた。私は、目をしだいに閉じ、力を抜いて総司に身をまかせた。少しすると、ドアが開く音が聞こえた。総司がそっちを見ると、私もそっちを見る。ドアの隙間からこっちを覗いているのは葵だった。葵が部屋に飛び込んで言う。


「何してるの!結衣ちゃんは私のなんだからね。」


 そう言って総司を吹っ飛ばす。私の前に立って総司との壁になった。起き上がった総司は、少し低い声で


「俺と結衣は婚約者だぞ。ああいうことしても普通だろ。それに結衣はおまえのじゃない。お・れ・の嫁だ。俺以外の誰かに結衣に手出しはさせない。」


「そうっ。でも、私は結衣のお世話係なんだから。」


 いつもの二人の会話が始まる。この二人はいつからこんなに仲がいいのだろうか。少し羨ましい。そして、嫉妬しちゃうかもしれない。二人が話している間に私は服を着て支度をした。まだ会話が続いていたので私は勝手に部屋を出た。それに気づいた二人は私を追っかけてきた。これが特訓3日目の朝である。


 総司の話を聞くと、私は1回目の特訓のあと今日まで眠っていたらしい。あの特訓のことが組織中に広まり、予定していた特訓相手の幹部たちは辞退した。そんな話をしていたら、よこからわって入ってきた人物がいた。副頭首の大石歳忠である。いつも和泉守兼定いづみのかみかねさだを持ち歩いている。大石が低い声で


「相手がいないなら俺が相手してやるよ。いいだろ、総司。」


「しかし、大石だと心配事が多い。おまえはやりすぎるからな。」


「何いってんだ、総司。おまえの代わりに誰が指示をまわしてるんだ。こっちは組織統制のためにどれだけ苦労してるか。たまには俺の願いを聞いてくれてもいいだろう。」


 総司は、大石の言葉に渋々承諾する。条件として、簡単なルールをつけた。大石は高速魔法の使い手。大石が使うのはいつも持ち歩いている和泉守兼定いづみのかみかねさだ、真剣である。新撰組の鬼の副長が使い、何人もの人を切り倒してきた代物である。そんなので勝負すると死人が出る可能性がある。だから、相手に一つ刀で傷をつけた者が勝利とすることにした。判定は、総司がする。それなら、私は少し安心して戦うことができる。全員の合意があったので、勝負は今日の午後に行われることになった。

 朝ごはんを済ませると、早速準備をする。といっても、特に道具とかを用意することはない。だから、魔法についての本を読んだ。


 早めにお昼を食べて、しばらくしたら、約束の時間になった。総司と一緒に演習場にいくと、すでに大石が待っていた。観戦ルームには、噂を聞きたててきたたくさんの人がいた。この中には、幹部たち全員の姿もある。


「誰がこんなに広めたんだ。俺としてはあまり楽しいものではないんだが。」


 総司が嘆く。大石は冷静さを保って


「勝負には観客が何人いようと関係ない。ただ盛り上がるだけだろう。」


 総司は少しやる気がなかったが、試合の準備を始める。今回も市街地のビル群で行う。私と大石は、それぞれ始まりの位置につく。総司は、いつでも試合を止められるようにフィールドに残って判定をするらしい。


 試合開始の合図がなると、3人同時に魔法を展開させる。すると、すぐに大石が高速魔法を使った。結衣は予測魔法で大石の動きを追うが速すぎて予測が追い付かない。フィールドを張って守りの態勢に入る。そこを見ていた大石は、ニヤリとしてビルを蹴っ飛ばす。凄まじい速さのなか、刀・和泉守兼定いづみのかみかねさだを抜く。そのまま結衣の頭上めがけて、振り下ろす。寸前のところで結衣は止める。しかし、音速を超える速さによって生まれた圧力に耐えきれず、地面のアスファルトにヒビが入り、それごと吹き飛ばされる。その隙を見逃さないのが大石である。鬼の副長の意志を継いだ和泉守兼定で斬りにいく。結衣は魔法の粒子で結界をつくり、斬撃をかわす。アウェイで形勢を整え、高速魔法で対抗する。

 しばらくの間、目には見えないほどの超高速での斬り合いが行われた。観客たちは、目にも止まらないスピードで行われている勝負に興奮して、騒いでいた。前に座って見ている幹部たちは、それぞれの思いをもって見ていた。総司は、ビルの上空から二人の戦いを見守っていた。正直、総司にも速すぎて見えない。判定ができないので試合を終わらせようと思っていた。

 しかし、そうすることはできなかった。大石が結衣の防御を払いのけ、結衣を斬った。速さに身を任せて数回斬る。結衣の身体は、そのまま落下していく。そして、大石は、先回りして下から結衣にとどめをさそうとしていた。それを見た総司はソード・ターンさせて刀・菊一文字に変化させると、ビルから飛び降りる。


「くそっ。だから、大石とはやらせたくなかったんだよ。おまえの性格はよくわかってるからな。けど、おまえも親友なら俺の性格がわかるだろう。」


 このままでは、高速魔法を使う大石に間に合わない。総司は落下しながら転移魔法を使った。


「我に道を開きたまえ、

 ループ!」


 総司の先に黒い穴があき、そこに入ると、大石と結衣の間に転移した。そして、大石のとどめの一撃を受け止める。


「大石!これ以上結衣にはさわらせん。しばらく黙っとけ!ショットォォ!!」


 総司のショットが大石の腹に当たり大石を吹き飛ばした。その行方を見ることなく落ちてくる結衣を受け止める。勝負はルールを破ったが誰が見ても大石の勝利だった。そのあと、すぐに結衣は医務室に運ばれ、治療をうけた。治療が終わっても意識が戻らず、結衣の部屋に運ばれた。


 結衣はただ眠り続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る